GoodfindCollege

COLUMN

起業・投資テーマをみつける未来社会分析〜Price Tech編

公開日:

Written/Edited by 原田 奈津子

「将来、起業・投資をしたいが、テーマが見つからない」──今回はそんな起業家や投資家を志す人にテーマ探しのヒントをお届けします。これまで何度か紹介してきた「テクノロジー社会学」(過去記事参照)

未来を予測するために、その根底にある技術動向・社会変化を多面的に捉えることは、「自分というリソースの投資先(=人生を懸けるテーマ)」を判断する上で非常に重要です。

今回は、価格戦略のテクノロジー「PriceTech」を事例に、「テクノロジー社会学」の視点を解説していきます。

Section

1

| 6

なぜ今、価格に注目するのか

「値決めは経営」という京セラ創業者 稲盛和夫氏の名言があります。「プライシング(値決め)」は売上や利益に直結し、事業成長や会社経営に大きく影響します。

例えば、「値上げ」は販売促進の3倍、コスト削減の2倍ほど利益へのインパクトがあると言われています。また、有名なマーケティングフレームワークである4Pの1つが「Price」であることも、プライシング(値決め)の重要性を物語っています。

しかし、何百万という企業が、これほど重要な経営課題の一つである「価格戦略」を実行できていないのが現状です。国内企業の多くは、モノやサービスの価格を属人的に勘や経験で決めていたり、原価から逆算した固定価格のままであったりと、需給や変化に合わせた最適化ができていないために機会損失しているのです。

野菜をいくらにしようか迷っている八百屋さん
何百万という企業がモノの価格を勘や経験を頼りに決めている

Section

2

| 6

SaaS王者の価格戦略

「価格戦略」の重要性が認識されている背景の一つに、サブスクリプション市場の成長があります。

サブスクリプション市場の中でもとりわけSaaS領域のスタートアップの評価に欠かせない指標として、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)と「Unit Economics(一顧客当たりの経済性・利益)」という考え方が重視されるようになりました。これらは、投資家による投資判断の材料としても使われる指標で、Unit Economicsの健全性はスタートアップの事業の基礎となるものです。Unit Economicsを健全に保つために、SaaS企業は変わり続けるLTVをアップセルやクロスセル(顧客単価を上げるための営業手法)を用いて高く維持する必要があります。

ここで、戦略的な価格設定が事業成長に与える影響を、SaaSの王者である Salesforceを例にみてみましょう。

同社は、最初はシンプルな単一価格から、徐々に高単価なクライアントと、低単価なクライアントという形で差をつける価格設定をしています。また、プロダクトが一度市場に浸透して市民権を得た後は、やや強気な価格付けを行い、初期の価格から6倍値上がりしているプランもあります。

このように値上げや価格体系の変更により売上増大につなげています。本来、価格は最初に設定して終わりではなく変動しうるもので、価格設定は会社の成長率や利益率に大きなインパクトを与えることがわかるでしょう。

SaaSに特化したVCの前田ヒロ氏によると、512社のSaaS企業を調査した結果、〈顧客獲得の最適化〉と〈価格設定の最適化〉では、後者の方が企業成長に4倍ものインパクトを与えることが分かっています※1

なお、Salesforceが牽引するサブスクリプション市場の市場規模は、現在日本国内で6,000億円を超えており、今後5年間で1.5倍に拡大する見通しです(矢野経済研究所調べ)。この市場や成長要因について本記事では割愛しますが、起業家や投資家には欠かせない領域です。ぜひご自身で調べてみてください。

参考:
※1 SaaSの価格設定でよくある「間違い」 | 前田ヒロ

Section

3

| 6

価格を科学する「PriceTech」とは

そんな中、科学的な価格設定を可能にする技術革新として注目を浴びているのが「PriceTech」です。PriceTechとは、あらゆる価格戦略を、ITやAI・ビッグデータ分析などのテクノロジーの力で最適化するという「価格戦略」と「テクノロジー」が交じり合った概念で、株式会社空が提唱した造語です。

同社は価格の在り方に変革を起こそうとしており、近い将来、FinTechのように様々な企業がPriceTechに取り組み、新たな市場・産業が生まれると考えられています。

PriceTechが実現しつつある背景には、ECの普及やデータ活用技術の進展があります。例えば、AmazonやメルカリといったECプラットフォームにおいては、膨大な購買データの取得・蓄積が可能になりました。そしてこれらの「誰がいつ、何をいくらで買ったのか」というデータを活用することで、最適な価格設定を行うことができるのです。

また、PriceTech領域のトップランナーである株式会社空の代表 松村大貴氏は、「需要と供給の限界」もPriceTech普及の追い風になっているといいます。人口減少による購買数(需要)の限界や、人手不足によるモノ・サービス供給の限界によって、企業はかつての薄利多売型から「限られたリソースでの利益追求型」へシフトしており、値決めを最適化せざるを得なくなっています。

さらに、キャッシュレス決済の普及、買い手のニーズ多様化による売り手の値決め回数増加といった昨今のトレンドも、PriceTech産業の成長に期待が寄せられる背景となっています※2

参考:
※2 【解説】「勘と経験」に頼った値付け、もうやめませんか? | NewsPicks

Section

4

| 6

PriceTech市場のポテンシャルとは

国内有数のVCである株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズの渡邉佑規氏は、PriceTech市場の将来性について、以下のように分析しています。

「PriceTechには、あらゆる業界の利益率を底上げする可能性があります。
1,000億円の利益率が1%改善したなら、利益は10億円も増える。そのうちの手数料をいただくとしても、それなりの金額になる。

業界単位の導入になれば桁が変わり、複数の業界にまたがれば、その規模は計り知れません」 引用:
勘で値付けする慣習に終止符を打つ。PriceTechの普及に邁進する空は、どのような未来を描いているのか | FastGrow

近い将来、PriceTechをあらゆる業界へ横展開することができれば、PriceTech事業を手掛けるトップランナーは世界的企業となるポテンシャルがあると見ることもできるでしょう。

Section

5

| 6

PriceTechで企業や個人はどう変わるのか

PriceTechには大きく分けて「ダイナミック・プライシング」「プレ・プライシング」「ポスト・プライシング」という3つの手法があります。経済産業省のレポートでも、2030年代に確実に起こる未来として「ダイナミック・プライシング」が取り上げられています。

買い手が商品・サービスを体験後に満足度に応じて価格を決める「ポスト・プライシング」は、エンタメやメディア業界など、ユーザーごとに感じる価値が異なるデジタルコンテンツビジネスなどへの活用が期待されます。例えばNetflixのように、現在は固定課金が主流のサブスクリプション市場にも大きなインパクトを与えるかもしれません。

PriceTechの3分類
PriceTechの3分類
「PriceTech業界カオスマップ2019」をもとに作成

一方で個人は、PriceTechによって「価格で悩まなくなる」と考えられます。遠くの安売り店まで行ったり、複数業者の価格を見比べたりすることなく、常にその時の最適価格のモノやサービスを購入することが可能になるのです。

実は、すでに様々な企業でPriceTechの取り組みが進んでいます。例えば、ホテルや航空券を予約する時、早割を使ったり翌日に価格が変わっていたりしますよね?それはPriceTechの活用例です。また、Uberは世界最高レベルに進んだPriceTechを自社開発しています。他にも、テーマパーク、家電量販店などで導入され始めています。

Section

6

| 6

人生を懸けるテーマを見つけよう

今回は、PriceTechという「テクノロジーを使った価格戦略の仕組み」によって、あらゆるモノ・サービスの価格が最適化されるという未来を解説しました。PriceTechの普及によって、個人は価格に悩まず価値を感じやすくなり、企業は利益率向上により成長し、社会全体としても混雑解消や本当にほしい人に価値ベースでモノ・サービスが届くマッチングがなされるなど、三方よしのインパクトが見込まれます。

そしてこれだけ社会にインパクトを与えうるPriceTechという概念が生まれた背景には、ECの普及やデータ収集・分析、需要予測等の技術革新があるのです。

PriceTechをテクノロジー社会学のフレームで概観した図
テクノロジー社会学の視点が社会変化を読み解くカギとなる

PriceTechがそうであるように、社会に変化をもたらすイノベーションの裏には必ず、テクノロジーをどう活用するかという誰かの「知恵」と、社会をより良くしたいという人々の「情熱」があります。

そして同時に、このイノベーションの波をいち早くキャッチするには、情報をただ情報として蓄えるのではなく、「テクノロジー社会学」(=そのテクノロジーの進化が社会をどう変えるのか?)という視点を持って考察することが重要です。

テクノロジーが及ぼす社会変化を知ることで、興味・関心の対象が広がったり、未来を予測したりできます。さらに、気になる社会課題に対して仮説を立ててみると、あなたを突き動かす「テーマ」に辿りつけるかもしれません。

Writer/Editor

原田 奈津子

原田 奈津子

Goodfind College 編集部
慶應義塾大学経済学部卒。音楽業界、外資生命保険会社、事業開発専門のスタートアップを経てスローガン入社。学生向けキャリアアドバイザー、企業の採用支援担当を経て現職。国家資格キャリアコンサルタント。