COLUMN
織田のマクロ経済学(3)「世界で起こる4つの変化」
戦略コンサルタント出身・連続起業家でありながら、アジアのトップ校で経済や企業戦略の講義を手がけるGoodfind講師の織田による「マクロ視点でのキャリア思考」講座。シリーズ3回目は、世界の潮流とこれから起こる変化について解説します。世界で現在起きていること、今後起きることを知り、これから始まる長いキャリアをどのように築いていくか考える一助となれば幸いです。
SECTION 1/6
「世界の時価総額ランキング」から読み解けること
これまで2回(第1回・第2回)に渡って、学生が誤解しがちな日本経済の事実を解説しながら、マクロ視点を持つ重要性についてお伝えしてきました。今回は、世界に目を向けてみましょう。
まずは「世界の時価総額ランキング」を見て、皆さんは何を感じるでしょうか。米国・中国企業、IT・石油企業が多いですね。全100社中、日本企業が2社しかないのは少ないと思う方もいるかもしれません。しかし、時価総額が大きいということは、その企業に富が集中していて所得の格差が広がっているとも言えます。実際、GAFAのような時価総額ランキング上位企業の実質的な本拠地であるサンフランシスコでは、年収1000万円では低所得の部類に入るといいます。日本企業が時価総額ランキングの上位に少ないということは、生活が安定している中間層が厚く、経済的にも平和であると見ることもできます。
このように、時価総額ランキングひとつとっても、ある程度社会情勢や経済の動きを知っていれば、より客観的で多くの示唆を得ることができます。今回は、社会で生きていくために最低限知っておいてほしい、4つの世界経済の潮流を解説していきます。
SECTION 2/6
潮流①アメリカか中国か?「踏み絵」を迫られる国々
まず、日本に住む私達が知っておくべき世界の潮流の一つが、米中関係です。近年、アメリカ・中国という2大大国を前に、日本やEUを含むその他の国々は、微妙なバランスの中で立場を模索しています。
米中の不安定なパワーバランスの背景にあるのは、中国がいずれアメリカよりも大きな経済力を持つ国になるということです。中国はアメリカの4倍以上の人口、すなわち消費量(需要)も潜在的には4倍あり、将来中国のGDPがアメリカを抜くことは確実でしょう。そのとき、現在のパワーバランスが崩れます。4倍になった国内需要を国内生産だけで賄うことはできないため当然貿易量も多くなり、トータルではアメリカの貿易量を超えていきます。そうなると生産諸国はアメリカよりも中国を見て国策の舵を切らないといけない状況になり、これまで通り常にアメリカの意向に従うことはなくなるでしょう。
このように、経済力の違いが国際バランスを変えるのです。事実、年々中国の影響力は増しており、2014年に中国主導で正式に設立されたAIIB(アジアインフラ投資銀行)に加盟していない主要国は、今や日本とアメリカぐらいです。
日本にとって、メインの貿易相手国は長年アメリカでしたが、日本からの輸出先国としては中国も負けないくらいの輸出量になってきました。たとえば、世界のスマホ市場シェア第2位を誇るファーウェイ社製品の多くの部品や組み立てるロボットが日本製です。同社の製品が世界中に広まれば、必然的に日本との貿易量も増えるわけです。以上のことからわかるのは、政治的な利害と経済的な利害はなかなか分離できないということです。そういう意味で、各国は微妙なバランスの中で立場を模索しているのです。
SECTION 3/6
潮流②バブルの崩壊。リーマンショックを超える衝撃!?
つぎに、世界中の企業及び政府の不良債権や債務超過が、リーマンショック以上の衝撃をもたらす可能性についてお話しましょう。
2008年、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに、世界は深刻な金融危機に陥りました。世界最大規模の生命保険グループであるAIGが倒産しかけたことをご存じの方もいるでしょう。AIGほどの大企業が潰れれば経済が回らなくなるため、アメリカ政府は彼らの借金を買い取って救済しました。しかしその結果、「大企業が潰れ新しい仕組みが生まれて経済が再生する」というサイクルが回らず、悪い体質のまま企業を生き永らえさせる状況を招いたのです。このような対応がアメリカのみならずほとんど全ての国々で行われ、結果として各国の借金がどんどん増えています。ギリシャのように財政破綻に追い込まれた国もありますね。
その中でも、現在大きな不良債権を抱えているのが中国です。GDP成長率7%を死守するため、無為に不動産建築やインフラ整備を進めたことで財政が圧迫されているのです。現在の中国には、非効率で経営不振の国営企業や自治体の不良債権が増えすぎていますが、「大きすぎて潰せない」「不景気にするわけにはいかない」などの事情、つまり流動性確保のために残されています。しかし経済的に採算の取れない企業を維持し続けても、いつかクラッシュ(経済破綻)するのは当然です。しかもその実態は不明瞭で、いつどのくらいの規模で起きるかもわからない状態なのです。
リーマンショックの際は、当時経済が比較的好調で余力のあった中国やサウジアラビア、日本といった国々が、共倒れを避けるためアメリカを助けました。しかし、もし今中国の経済が破綻してしまったら、助ける体力のある国はなく規模も多すぎるため、誰も救うことができないでしょう。
SECTION 4/6
潮流③格差拡大、失業……グローバル化がもたらす矛盾
これらの経済的な変化に加え、人やモノ、情報が国境を超えて移動するグローバリゼーションがどんどん活発化していくでしょう。
一方で引き起こされるのが、格差の拡大です。一部の楽観的な経済学者は「それぞれの国が自分たちの得意なものを作ってトレードすれば上手くいく」と唱えていますが、それは机上の空論だと思います。現実のグローバリゼーションは、強い国に権力や富が蓄えられ、弱い国を「植民地化」していっている状態です。グローバリゼーションによってアイデンティティを失った人々がそのことに気づくと、やがて宗教・人種・民族・言語などが同じ者同士で結束するようになります。ある意味グローバリゼーションと逆行するわけです。
また、グローバリゼーションによってもたらされるもう一つの矛盾が、「中間層の減少」です。現在の先進国では、中間層が減少しています。なぜなら、賃金の安い海外に工場を移したり、自社製造をやめ海外からの輸入に切り替える傾向が強まったことで中間層の仕事が減っているからです。また、途上国でもほんの一握りの超リッチな上位層が生まれ、やはり格差は拡大しています。いずれの場合も、地域内格差が大きくなると社会は不安定になり、テロが発生したり極右・極左やポピュリズム色の強い政党が台頭してくる傾向があります。かつてトランプ大統領が失業中の工場労働者たちを味方につけ大統領に上り詰めたのが良い例です。
このように、本来地域間の文化や人が交流し、長期的に見ればあらゆる物事が均質化するはずのグローバリゼーションが、結果として人々を分断するという矛盾をもたらしているのです。
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潮流④「衰退する先進国」と「発展する途上国」の争い
グローバル化によって、世界経済のパワーシフトは加速していきます。経済が成熟し高齢化と人口減少が進む先進国に対し、インド、ナイジェリア、エチオピアなどのまだ貧しいけれど若くて元気な国は伸びる可能性を秘めています。
2016年、イギリスを抜いてGDP世界第5位になったインドの一人当たりのGDPは約20万円で、日本の約400万円の20分の1です。グローバル化によって、いずれインド人が日本人と同じような水準で生活することを想像すれば、インドのGDPに大きな伸びしろがあることは明らかでしょう。ほかにも一億人規模の人口をもつフィリピンやベトナムなども、高いポテンシャルを持っています。
先進国では高齢化と人口減少により経済全体の停滞か衰退を招くところが多く現れます。日本やドイツなど一部の国では労働力不足が顕著になり、需要のみならず供給側にも影響が出る可能性があります。そうなるとこれらの国から途上国への工場の移転や労働力の流出は増え、国内の一部の産業は徐々に弱体化していくでしょう。国単位で見ると均衡に近づいているとも言えますが、実際は先進国にとって都合の良い部分だけが実現され、途上国の一部の人だけが潤い、結局地域内格差やテロなどの不安要素を高めている可能性もあります。
SECTION 6/6
世界の問題は全部ビジネスチャンス!
将来のことを決めるにあたり、世界経済が現在どうなっていて、今後どのように動いていくかを把握することは重要です。世界における問題は、そのままビジネスチャンスになりうることを忘れてはいけません。例えば、途上国における劣悪な生活環境とインフラは医療と海外投資のビジネスチャンスですし、健全な経済成長を歩めば人口増加によって衣食住の需要も増加し、途上国自身も安定的に進歩するでしょう。
もしかしたら、あなたに起業や海外勤務、外資系企業への就職という選択肢はないかもしれません。それでもあなたが就職する企業や生活環境は、何らかの形で世界と関わりを持っており、その大きな流れに沿って動いていきます。志望企業の業績発表や海外進出を知ったとき、主要な国際ニュースを聞いたとき、その背景にある大きな潮流をなんとなく知っているだけで情報の捉え方は変わります。その企業の今後の立ち位置を予測したり、あなたの就活や転職に与える影響を読み解いたり、社会に出てからも通用する深い思考力を鍛える役に立つでしょう。
今回解説したような世界的な潮流は、あらゆるビジネストレンドの根源になるので、基礎体力づくりだと思ってぜひ定期的に情報をアップデートしてみてください。
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