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日本経済はもう終わり?世界のトップ校で教える大学教授が解説「誤解されがちな日本経済の事実(1)」

公開日:

Written by 織田 一彰/

Edited by 長嶺 匡晃

「日本経済はもう終わりである」「日本は貿易立国で製造業中心の国である」──これらの事実が実は間違っていたとしたら?今回は戦略コンサルタント出身・連続起業家でありながら、アジアのトップ校でキャリアのあり方についての講義を手がけるGoodfind講師の織田が登場。学生が誤解しがちな日本経済の事実を解説しながら、マクロ視点を持つ重要性についてお伝えします。

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マクロ視点が個人のキャリアにどう役立つのか

ある過去においては確かに真実だった物事が、時代が変わりいつの間にか真実ではなくなっているということはよくあります。親世代に信じられていた「新卒でなるべく名の知れた企業を選び、そこに入って40年勤めて定年を迎える」という当時の常識も、終身雇用制度・年功序列の崩壊や労働形態の多様化(これについてはまた別の機会に詳しく解説します)に伴って、すでに常識ではなくなってきています。

また、キャリア選びで最も悲惨なことは、安定する道を志望しながら不安定な道を選んでしまうことです。そしてそれは過去の常識だけを盲信した結果であり、しかもその道を選ぶ人のなんと多いことでしょう。皆さんのキャリアは、皆さんがどの環境にいるかに大きく依存するので、日本経済や世界事情に対する正しい認識(マクロ視点)を持つことで、真に安定した、もしくは自分が進みたいと思った道にきちんと進める確度が高まるでしょう。今回は、特に多くの学生が誤解している日本経済にまつわる事実を紹介します。

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誤解1「日本は経済的にはもう終わりである」

戦後の高度成長から1990年前のバブル崩壊まで、日本の経済は元気でした。その「例外的に」元気な時期と比べるとどうしても現在の姿がさみしく見えるのは致し方ありません。しかし、だからと言って「もう世界が終わりだ」とか、「もう明るい未来はない」みたいな極端な見方をすることは本質から外れています。

確かに、近年では韓国や台湾など周囲のアジアの国々の台頭などにより、国際的なプレゼンスは年々下がっており、世界でのGDPシェアは1990年代初頭の約17%をピークに2017年には約6%と1/3の水準にまで落ちています。しかし、そもそもそれまでこの小さな島国が17%のGDPシェアを占めていたこと自体が不自然だったのかもしれません。GDPが大きな理由は、他の国々の経済発展と日本の工業化がちょうどシンクロした結果であり、そもそも人口が世界のたった数%しか占めない日本が17%のGDPシェアを取るということは、外国に“失業”を輸出していることとほぼイコールなので是正されてしかるべきです。

世界経済に占める日本のGDP
GDP, current prices」(IMF)をもとに作成

それでも「失われた20年」という言葉に代表されるように、皆さんが日本経済が停滞しているように感じるのは、これまで多くの企業が国内需要に応えるための生産活動をおこなっていた事が要因のひとつであります。実は日本経済は思いのほか国内向けの製品やサービスの提供が多く、人口も世界第10位の1.2億強。先進国の中ではアメリカの3.2億超、ロシアの1.4億について次いで世界第3位と、十分に大きな国内マーケットを有しているのです。問題はこの世界第3位の規模の国内マーケットでの競争を優先するあまり、海外でのマーケティングに失敗してしまうということです。国内マーケットの小さい韓国企業が海外でのマーケティングを最優先するのとは優先順位がまるで違います。したがって、今後の日本がすべきことは、世界一目と舌の肥えた消費者を相手に多くの企業がしのぎを削っているレッドオーシャンであるこの状況を国際競争力の源泉とし、海外展開の優先順位を上げて世界で勝っていくということです。言い換えれば、日本は決して終わりではなく、新しいフェーズに入っているという理解が正しいでしょう。

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誤解2「日本は貿易立国である」

1954年から始まった高度経済成長期の約20年間、日本は確かに貿易立国でした。しかし現在、ものの輸出という点では、2010年に30年ぶりの貿易赤字に陥って以降、直近10年中6年は赤字なのです。また貿易額(貿易輸出総額と輸入総額の合計値)のGDPに占める割合は30%未満でドイツや中国、韓国と比べても小さな数字です。

日本の貿易赤字は今後も拡大しその後縮小する確率は低いでしょう。海外への生産拠点の移転に伴い、国内生産量が落ち込み輸出量が減少するためです。一方で国際収支の尺度の一つである第一次所得収支は、海外の工場や営業所などで得た利益が配当や利子などの形で還流し増加するため、経常収支全体で見れば均衡します。これは国の経済が成熟する段階で見られる現象で、イギリスなど先進国にも見受けられています(これを、経済学者のクローサーが「成熟した債権国」と呼んでいます)。食料品や日用品の輸入割合が増え、一部の有名な海外ブランドを除き、外国製品が日常生活に完全に入り込むようになります。ちなみにクローサーの理論によると、日本の「成熟した債権国」というフェーズは彼の理論の6段階のうちの5番目。その次には「債権取崩国」というため込んだ黒字が国外流出してジリ貧になっていくという段階が待っています。

クローサーの国際収支発展段階説
今週の指標 No.681 2005年12月5日 日本は「国際収支の発展段階説」における「成熟した債権国」への道を歩むのか」(内閣府)をもとに作成

クローサーの国際収支発展段階説

  1. 未成熟の債務国:産業が未発達のため貿易収支は赤字、投資のためには海外からの資金流入が必要。
  2. 成熟した債務国:輸出産業が発達し、貿易収支が黒字化するが、過去の債務が残っているため所得収支が大幅赤字、結果的に経常収支は赤字。
  3. 債務返済国:貿易収支の黒字が所得収支の赤字を上回り経常収支が黒字化。資本収支も赤字化する。
  4. 未成熟な債権国:海外資産残高が増大し、所得収支が黒字化。
  5. 成熟した債権国:貿易収支が赤字に転換するが、過去の対外資産からの収入があり、所得収支が黒字のため、経常収支は黒字。
  6. 債権取崩国:貿易収支の赤字が拡大し、経常収支が赤字に転落。海外資産残高が減少する。

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誤解3「日本は製造業中心の国である」

日本は確かに製造業が強く、自動車や電気製品など海外でも人気のあるブランドがたくさん存在しています。しかしかつての高度経済成長期はともかく、現在は簡単なもの、例えば100均で売っているような製品や衣類などはほぼアジアから輸入しているのです。事実として、日本のGDPにしめる輸出の割合は先進国の中で比べても低いことは明らかです。

G7各国の輸出依存度(2017年)
Exports of goods and services (% of GDP)」(世界銀行)をもとに作成

そして今後の製造業一般でいうと、グローバル競争が激化するので戦いは苦しくなるでしょう。高度経済成長期に日本の製造業が順調だったのは日本の特異性によるものが大きく、さらに発展途上国で価格競争力があり、また世界全体を見ても当時の先進国であるアメリカやヨーロッパの経済成長力で需要が伸びたこと、国内需要の増大と技術の発展時期と重なったなどのことから、比較的長期間に渡って日本の製造業にとって良い時代が続いたことも大きな要因です。ところがその後、発展途上国から先進国の仲間入りし、自国通貨である円が高くなりコスト競争力もなくなっていき、コストや技術のみならず、新しいものやアイディアを生み出さないと勝てない時代になってきています。さらにはグローバル化の進展はインターネットの普及により情報がフラットになり差別化できる要素が小さくなったことから、ますます国際競争は激化しているのです。

そのような状況の中で物作りが得意だった日本の産業も電子機器を中心に台湾や韓国などアジアの国々に押されるケースが見られるようになりました。スマートフォンを製造している日本企業はすでに2社となり、日本国内でもiPhoneやGalaxyなど海外製品を愛用する人のほうが圧倒的に多いのです。一方で産業用機械やロボット、素材など現在も世界シェアが高い分野もあり、すべての製造業が縮小傾向にあるわけではありません。

つまり、(当たり前の結論ですが)強みがありしばらく競争できる分野と、コモディティ化して価格競争となる分野で行く先が大きく変わるということです。また、これまで技術で差別化を試みてきた領域は大切にするべきですが、実際にはそれだけでは難しいところもあります。マーケティングやオペレーションで差別化を図るなど、「良いものだから売れる」という概念から一歩進んだ手法で取り組むべき分野です。

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時代の流れを読もう──マクロの視点を持つ

これまで解説してきたことは、世界での日本の立ち位置に関する知識のほんの一部ですが、まず世の中の大きな流れを普段から把握して、自分のチャンスを見つける目を養っておく必要があります。「世の中の大きな流れ」は歴史の流れの中での過去、現在、そしてそこからつながる未来を考えることが重要です。人間の常識というものは一般に過去の事柄の結果であることが多いため過去の事実からの帰結に過ぎません。一方で考えるべきは未来であり、過去の帰結だけを頼りにして静的に物事を考えると新しくできてくる仕組みを見誤る可能性があります。

そのように考えると、これまで「日本は潰れない」と考えられてきた事実について今後も大丈夫とは言い切れなくなります。国が発行する紙幣は国の信用があって初めてその価値が保障されるものであり、信用がなくなると紙きれのように扱われることは1990年代のアジア諸国の経済危機を見ても明らかでしょう。

マクロ視点を持つことは、世界全体の中での日本、企業、そしてあなた自身の立ち位置を考えることに大いに役立つでしょう。世界地図の上での自分の座標がわかれば、今後の意思決定に必ず寄与します。そしてその思考と選択の先に、あなたにとっての「良い会社」「良いキャリア」があるのです。

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Writer

織田 一彰

織田 一彰

スローガン株式会社 共同創業者・エグゼクティブフェロー ケイ・コンサルティング株式会社 代表取締役 名古屋大学 客員教授 バンドン工科大学 客員講師
名古屋大学博士課程(数学専攻)からアンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)にて戦略コンサルタントとして日本と米国で活動。帰国後独立し、シリアルアントレプレナーとなり多くの上場・M&Aを経験。Goodfind立ち上げ後はシンガポール国立大学、インド理科大学院、バンドン工科大学などアジア国のトップ校で多数の起業講座を開催。

Editor

長嶺 匡晃

長嶺 匡晃

Goodfind College 編集部
都立戸山高校出身、慶應義塾大学経済学部4年生。Goodfindのミッションに共感し、2020年入社予定、Goodfind College編集部のインターン生として奮闘中。趣味は写真撮影。