COLUMN
専門性を活かす理系就活は最適な選択か?数学博士出身のGoodfind講師に聞く

理系学生の皆さんは就活において、「自分の研究や知識は社会で通用するだろうか」という不安を抱いていませんか?理系博士課程から戦略コンサルを経て連続起業家として活躍するGoodfind講師・織田氏は、「ビジネスにおける理系の強みは、研究領域における専門知識だけではない」と指摘します。今回は、変化の激しい現代にこそ求められる理系の強みを整理し、持続可能で自分らしいキャリアを築くためのヒントをお届けします。
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公開日:
話し手
織田 一彰
スローガン株式会社 共同創業者・エグゼクティブフェロー ケイ・コンサルティング株式会社 代表取締役 名古屋大学 客員教授 バンドン工科大学 客員講師
SECTION 1/4
理系の強みは専門知識だけではない
⸺理系学生の中には「このまま専門領域を追求して就職につながるだろうか」「潰しの効くスキルが身につく業界を選ぶべきか」など、キャリア形成に不安を抱えている人も少なくありません。
織田:理系学生ならではの悩みですね。例えば特定の技術を極めようとする姿勢は重要ですが、そこに不変性を求めてしまうのは危険です。テクノロジーのトレンドはおよそ20年周期で大きく変容するため、いま極めようとしている技術が数年後には前提から覆る可能性も十分にあるからです。
大切なのは専門性を深く掘り下げつつ、社会における価値の変動にアンテナを張っておくことです。「自分の技術が社会でいつ、どのように求められる可能性があるか」を冷静に見定め、必要に応じて新しい知見をどん欲に血肉化していく姿勢が重要です。

⸺変化の激しい時代に、理系学生は自身の「専門性」とどう向き合っていくべきなのでしょうか?
織田:研究には、中長期的な視点が必要です。どれだけの努力を重ねても、たとえ博士号を取得しても、20代で取り組む研究は「序の口」に過ぎません。こうした状況を中途半端で不完全燃焼であると感じる人もいるかもしれませんが、専門性は社会に出る時点では未完成で当たり前だと割り切って捉え直すことから始めましょう。
また「専門性が高い」とは、特定の学問や技術分野において深い知識・経験・スキルを有する状態を指しますが、AIの普及によって誰もが世界中の情報に簡単にアクセスできる現代において、単に知識が豊富であることは評価されなくなっています。
こうした社会情勢も踏まえると、「社会が理系出身者に求めているのは、専門知識だけではない」という事実と、過度に自分の専攻にとらわれずキャリアを考えることの重要性に気づくことができるでしょう。
⸺ビジネスシーンで理系出身者に寄せられる期待とは、具体的にどのようなものですか?
織田:理系学生が日々の研究プロセスを通じて培ってきた「3つのスキル」が、専門知識以上に高く評価されるようになっています。

知識のコモディティ化が進む中で、改めて注目されているのが、情報判断力です。AIによって情報収集が容易になった一方で、AIの回答には不正確なものや信頼に値しないものが含まれている場合も少なくありません。情報の真偽を見極めて取捨選択し、活用方法を決定する力の価値が相対的に高まっています。
次に挙げられるのが、論理的思考です。さまざまな事象が複雑に交錯するビジネスにおいては、曖昧な物事に対しても合理的な根拠に基づいて仮説を立て、ロジカルに筋道を立てて思考・判断していく力が必要不可欠です。数学的な素養が求められるケースも多く、日々研究でデータやファクトに向き合い、客観的な論理構築に取り組んでいる理系学生が、無意識的に積み上げてきたスキルであると言えるでしょう。
⸺日々の研究で培ってきたスキルが役立つことがイメージできました。3つ目のスキルについても教えてください。
もう一つ大きな強みになるのは、学習を継続する力です。技術革新の著しい昨今、新しいテクノロジーや未知の概念に忌避感を示すことなく、自分に合った学習方法で継続的にキャッチアップする力が求められています。難解な教材に対峙して少しずつ理解を深め、膨大な時間を割いて実験や研究を前に進めてきた経験は、ジャンルや領域が変わったとしても応用の効くもので、キャリア構築の確かな土台となります。
3つの強みに共通するのは、高い再現性です。専門知識をそのままビジネスシーンで活かす場面はそう多くありませんが、研究というハードな環境下で鍛え上げられた思考プロセスやマインドセットといったソフトスキルは、ビジネスを前に進める上で大いに役立ちます。
いま持っている専門知識だけで、人生100年時代のキャリアを完結させることは現実的ではありません。理系だからこそ兼ね備える3つの強みを糧に「知識が古くなれば、新たな領域を学ぶだけ」という柔軟な発想を持つことで、理系人材のキャリアの可能性は専攻の枠を超えて広がっていきます。
SECTION 2/4
実は理系人材が活躍できる場所
⸺理系職といえば製造業や研究職などが想起されがちですが、先ほどの強みを活かすと、ほかにも活躍できる業界や職種がありそうです。
織田:理系が活躍できる環境には、業界や職種を超えて共通した特徴があるので、順に見ていきましょう。
まず挙げられるのは、「技術理解の必要性が高い環境」です。近年多くの産業の根幹にテクノロジーが組み込まれるようになり、技術職以外の営業やマーケティングでも、技術の仕組みや勘所が理解できなければ成果を上げるのが難しい時代となっています。専門であるか否かに関わらず、新しいものに忌避感を覚えることなくキャッチアップする学習継続力を持つ理系人材には、大きなアドバンテージがあると言えるでしょう。
次に、「複雑で曖昧な事象の構造化が求められる環境」です。難解な社会課題に挑むビジネスや大規模なシステム構築が求められる場面では、物事のプロセスを論理的に整理することが重要です。理系人材の強みとして挙げた、論理的思考力や情報判断力が求められています。
最後に挙げられるのが「知識ではなく、再現性のある思考プロセスを重んじる環境」です。成長性の高いビジネスの現場には正解のない未知の課題が数多くあり、何を知っているかではなく、「どう考えたか」という問題解決のプロセス自体が高く評価されます。研究で培った仮説検証やデータ分析、論理構築などのプロセスをそのまま活かすことができる環境です。

⸺3つの要素を併せ持つ具体的な環境を教えてください。
織田:DXという社会全体の不可逆なトレンドを支えるIT産業や、社会に新たな価値を生み出す新規事業創造、人類全体が抱える課題の解決を目指すディープテック関連領域など、さまざまなレイヤーで理系が活躍できる環境を捉えることができます。
業界で例を挙げるなら、ロボットやヘルスケアなど、技術術理解が不可欠な事業領域の多角化が進む総合商社や、新しい領域の開拓にスピード感をもって取り組むベンチャー企業も3つの要素を満たしていると言えるでしょう。
職種としてイメージしやすいのは、最新の技術を落とし込んだプロダクトを顧客にわかりやすく伝えることが直接成果につながるセールスです。ほかにも大量の数字を扱って市場を構造的に捉えるマーケティング職や、複雑な社会構造を紐解き、仮説検証を繰り返して最適な施策を考える事業開発職なども挙げられます。
SECTION 3/4
有望企業・産業を見極める3つの視点
⸺メーカーや研究職に限らず、多様な現場で理系人材が求められているのですね。入社先として有望な企業や業界は、どのように見極めればよいのでしょうか?
織田:就活市場においては、例えば国内企業に対する悲観論や、就職偏差値といったブランド志向も根強く残っています。こうした「他者の評価」に惑わされず、「構造」「時間軸」「空間」という3つのマクロな視点で企業や業界を分析することが重要です。
⸺3つの視点について詳しく教えてください。
織田:まず1つ目の「構造」とは、複数のプレイヤーが連なるサプライチェーンとして、産業を俯瞰的に捉える視点です。
新興国などの台頭を背景に話題になった、国内メーカー悲観論を例に考えてみましょう。例えばスマートフォンは海外メーカーにシェアを奪われています。最終的なプロダクトだけを見ると「日本の製造業は負けた」と錯覚しがちです。
しかしサプライチェーンの上流にあるBtoBメーカーに目を向けてみると、景色は一変します。スマートフォンに欠かせない半導体部素材という分野では、日本のメーカーが依然として高いシェアを誇っています。
素材や工作機器など日本企業が世界的なシェアを誇るBtoB領域はほかにもあり、国内メーカーを一律で悲観的に捉えるのは、正しい認識ではありません。
次に、その企業や業界が解決しようとしている課題の「時間軸」を見ることが重要です。例えば人口増加に伴うエネルギー需要の増大やタンパク質不足、気候変動など、数十年単位で人類が直面する課題は、見方を変えれば事業機会を生み出し続ける有望な市場であると言えるでしょう。
⸺3点目の「空間」の視点とはどのようなものでしょうか。
織田:地理的な優位性を見極める、ということです。例えば世界における日本企業の立ち位置を考えてみましょう。現在、世界人口の約60%が中国やインドをはじめとするアジアに集中しており、一大消費地となっています。日本はこの巨大市場に隣接しているという、圧倒的な優位性を持っています。
さらに、日本は宗教戦争と無縁で敵対する国も少なく、親日国が非常に多いという大きな資産を持っています。巨大市場のすぐそばで、これほど有利な条件でインフラやサービスを提供できるポジションにいる国は珍しく、世界における日本企業の大きなアドバンテージであると言えるでしょう。
具体的にイメージしやすいのは、都市開発の分野です。鉄道会社や関連メーカー、デベロッパーなどが経済発展の著しい国に進出し、街の中核となる駅とその周辺を整備します。そこを起点に飲食やファッションなど「日本発」というブランド力を持つ多様なtoCサービスが展開され、新たな市場が作られていくというわけです。
こうした3つのマクロの視点を組み合わせて産業を捉えれば、一過性のトレンドや知名度に惑わされることなく、10年、20年先も事業機会をつかみ続ける有望な市場の広がりが見えてくるはずです。ぜひ一度自身の専門領域にとらわれず、さまざまな企業や業界を見てみることをお勧めします。
SECTION 4/4
進学か就職か。持続可能なキャリアのために
⸺マクロな視点に立つことで、有望な市場を見極めることができるのですね。そうして見極めた舞台で、自分自身の持続可能なキャリアをどのように築いていけばよいのでしょうか。
織田:大前提として、終身雇用や60歳定年という従来の就労モデルは崩壊しつつあることを認識しなければなりません。会社に依存するのではなく、転職を前提としたキャリアを意識することが重要です。自身の市場価値は専門性にとらわれた固定的なものではなく、常にアップデートしていくものだと捉えるとよいでしょう。
⸺市場価値を高めていくうえで、理系学生が直近で直面する大きな悩みが「自分の専門性をどこまで追求するか」、すなわち「博士後期課程への進学か、就職か」という選択です。この点についてはどう判断すべきでしょうか。
織田:判断基準は非常にシンプルで、「基礎研究が直接社会に役立つ分野かどうか」です。基礎研究は実用化までに一定の時間がかかり利益化が遠いことから、企業側で追求することは困難な一方で、技術革新には欠かせないものであり、高いニーズがあります。
例えばAIや情報工学、薬学、素材、ロボットなどの分野であれば、基礎研究が社会実装に直結しやすいため、博士号の取得がキャリアにおいて有利に働きます。そうでない分野であれば、社会に出るのが数年遅れるという時間的なデメリットが上回る可能性が高いことを考慮したうえで判断することをお勧めします。

⸺織田さんは博士課程(数学専攻)まで進学したのち、コンサルタントからキャリアをスタートさせていますが、ご自身がいま理系の学部生であると仮定した場合、どのようなキャリアパスを描きますか。
織田:学部を出てすぐ、「時間軸」の視点で有望な分野で就職すると思います。再生エネルギーやリサイクルなど地球規模の課題に取り組む企業で、エンジニアとして働くといったイメージです。国家レベルで注目の集まるジャンルで、組織に依存せず自分のキャリアを構築することができ、やりがいも感じられるでしょう。
別の角度では、青年海外協力隊などで収入を確保しつつ世界を知る機会を得るのも選択肢の一つです。私自身が新卒入社したアンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)の本社研修でアメリカを訪れた際、肌で感じたカルチャーの違いに驚愕し、視野を広げる必要性を痛感したからです。
今は手軽に情報が手に入る時代ですが、こうした実体験を伴う一次情報に直接触れることで得られる知見や思考にこそ価値があると言えるでしょう。
⸺選考対策という観点で、理系学生が留意すべき点はありますか?
織田:理系学生のみなさんからはコミュニケーション面での不安を相談いただくことが多いですが、過度に心配する必要はありません。慣れで解決できる問題なので、Goodfindの面接対策やグループディスカッション対策の講座を受講し、場数を踏んでコツをつかむことが重要です。
特にオフラインでのコミュニケーションが苦手な方は、まずは3回、対面で開催されているグループディスカッションを経験してみてください。初回は発言できなくてもよいので、まずは独特の空気に慣れることから始めましょう。
また、これまで取り組んできた研究内容やそのプロセスを、専門外の人にも研究の魅力や意義が伝わるような言葉で、平易な例を挙げて説明できるようにすることも重要です。
⸺最後に理系学生・院生へのメッセージをお願いします。
織田:就活のゴールは、人気企業に入ることでも、専門性を直接活かせる場所を見つけることでもありません。他者の評価に惑わされず、強みを活かして成長できる環境をファクトベースで見極め、中長期的なキャリアを築いていくことが重要です。
理系学生・院生には未知の課題に論理的に向き合い、学び続ける確かな素地があります。愚直に研究に向き合い続けることで培われた強みを信じて、広い視野で自分らしいキャリアの舞台を見つけてください。
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