EVENT REPORT

織田のマクロ経済学・特別編「コロナで世界はどう変わるのか」

新型コロナウイルス(以下「新型コロナ」または「コロナ」と表記)の影響により、社会・経済・生活など、あらゆる領域で地殻変動が起きています。Goodfindでは、この変化を好機に変え、逞しく生きるすべを考える場として、「緊急討論LIVE」を開催しています。第三回は、戦略コンサルタント出身・連続起業家でありながら、アジアのトップ校で経済や企業戦略の講義を手がけるGoodfind講師の織田による「マクロ経済学・特別編」。Goodfind College編集長である川村を聞き手に迎え、世界中にネットワークを持つ織田から、この変化がどう見えているのかを余すことなくお伝えします。

話し手

織田 一彰

織田 一彰

スローガン株式会社 共同創業者・エグゼクティブフェロー ケイ・コンサルティング株式会社 代表取締役 名古屋大学 客員教授 バンドン工科大学 客員講師

SECTION 1/6

国家や企業・地域間に起こる弱肉強食

織田 一彰

スローガン株式会社 共同創業者・エグゼクティブフェロー
ケイ・コンサルティング株式会社 代表取締役

名古屋大学博士課程(数学専攻)からアンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)にて戦略コンサルタントとして日本と米国で活動。帰国後独立し、シリアルアントレプレナーとなり多くの上場・M&Aを経験。Goodfind立ち上げ後はシンガポール国立大学、インド理科大学院、バンドン工科大学などアジア国のトップ校で多数の起業講座を開催。

川村 直道

スローガン株式会社 Goodfind College編集長

本メディア編集長。今回の緊急討論LIVEの企画責任者も務める。早稲田大学を卒業後スローガンに入社。セミナー講師/キャリアアドバイザー、京都支社長、Goodfindのメディア・イベント責任者などを経て現職。

川村:織田さんは “Afterコロナ” の世界をどう捉えていますか。

織田:新型コロナの一連の騒動によって、今まで潜在的にあった好機と矛盾が表面化し、「強弱が鮮明な世界になっていく」というのが私の答えです。

まず起こることとして、世界規模の経済の低迷は避けられないでしょう。一部の国や企業の経営破綻が起こりうると考えています。しばしば比較に挙げられる経済打撃であるリーマンショックは、ヒト・モノ・カネのうちの「カネ」、つまり金融界でのトラブルから信用収縮を起こし、実体経済に悪影響を与えた形でした。このような景気悪化は、金融の流動性(=カネの流れ)を確保し、財政投資や減税で景気対策を行えば元に戻ります。

しかし、今回はウイルスとの戦いで「ヒト」の流れを制限しなければならず、文字通り人に依存する生産や消費を促すような政策を行うことができません。その結果、あらゆる業界に影響が出ているため、一時的にはリーマンショックを超える不況となるでしょう。

各国は一次対応として、金融界や企業のみならず、一般消費者にも給付金といった形でお金を配らなければなりません。そのために大量の国債を発行し、借金を増やしていきます。これにより、国債が紙切れ同様になるソブリンリスク※1とインフレ懸念が増大します。

今回は不況の影響範囲が広く、リーマンショック時の1.5~2倍のお金を刷る必要があるという試算もあります。リーマン時に各国政府が発行した国債ですら、10年以上経過した今も回収しきれていないことを考えると、保証元が国とはいえ、その負債額が国自体の信用問題となり、ソブリンリスクが大きくなっていきます。

リーマンショック時と大きく異なるのは、景気が悪化する中でも、「強」の部分が非常に濃く浮き出ることです。コロナがあらゆる業界に影響を与える中で、変化にうまく適応し、需要を掴んだ業界や企業は急激に伸びるでしょう。

例に挙げると、GAFAの一つである巨大IT企業のamazonは現在(2020年5月8日現在)でも高い株価を維持し、100兆円以上におよんでいます(ご自身で株価を調べてみて下さい)。このようにITやベンチャー系の領域では、積極的にビジネスチャンスを掴み、「強」の部分として成長を遂げる企業もあります。

※1 ソブリンリスク:国や政府機関が、発行した債券の元本の返済と利払いを履行できなくなるリスク。すなわち、国の信用リスクのこと。 ソブリンは英語のsovereignのことで、国王、統治者、君主、主権者、国という意味がある。

SECTION 2/6

新型コロナはデジタル化を強制加速し、未来社会の到来を早める

川村:近頃、コロナの影響でITやデジタルの需要が高まるという話はよく耳にしますが、この話題についてどのように捉えていますか?

織田:10年後に実現するはずだったデジタル社会が、3年後に早まったと捉えています。今、日本でもリモートワークが広まっています。オンライン会議も話題ですが、ジェダイ評議会※2のようにホログラムを通じて集合しているような体感を得られるようになれば、満員電車で通勤するのは非効率であるという価値観に変わるでしょう。それが10年、20年先に起こるはずだったのが、コロナ影響による強制的な変容でデジタル化が加速し、早期に到来すると考えています。

また、デジタル化の加速によって更に競争が加速し、弱肉強食の様相を呈すと考えています。この討論ライブ配信にも、全国から多くの方が参加されているでしょう? オンラインが当たり前になると、活動場所による機会の差がますます減っていきます。地方の方にとっては機会が得られるようになり、ポジティブなことだと思います。しかし、これによって競争倍率が上昇するとも言えます。今まで東京にいるからこそのアドバンテージがあった学生の方々には、厳しい話と言わざるを得ないでしょう。

グローバルでも同様の変化が起こっています。例えば私は東南アジアのいくつかのプロジェクトでも仕事をしているのですが、オンラインのコミュニケーションを用いることでこの状況下でもほぼ滞りなく進捗しています。地理上の優位性という概念がなくなり、アウトプットで評価がなされることで、グローバルでの競争もますます激しくなるでしょう。

※2:映画「スターウォーズ」に登場する惑星をまたいだオンライン会議

SECTION 3/6

途上国の経済失速と格差拡大

織田:今回のコロナの影響で、これまで経済成長に隠れていた負の面が顕在化するのではないかと懸念しているのが、発展途上国です。

まず、途上国ではコロナショック以前から国内に経済格差が存在しましたが、それが現在拡大傾向にあります。

私が頻繁に講義をしにいくインドでも、「インドのシリコンバレー」とも呼ばれるバンガロールでは人々も落ち着いて対応しており、行動制限はありつつも暮らしは安定していますが、貧困層が多い北部のデリーでは大混乱が起きています。貧しい人びとは、予防に関する知識が得られない、感染しても医療が受けられないだけでなく、感染せずとも経済の悪化により働き口がなくなり食べていけなくなる、といった問題にさらされているのです。

途上国にマイナスの影響が残るもう一つの理由は、これまで急成長を支えていた海外投資家が資金を引き上げ、経済成長が止まると考えられるからです。1997年のアジア通貨危機を発端とする引き上げと、同じ状況になる可能性があります。

当時の状況を少し説明しましょう。1990年代、タイやインドネシア、韓国といった新興国が資金を海外から調達し、国内産業に投資を行って成長していました。しかしドルペッグ※3を行っていたタイで変動相場制への移行を強いられ、対ドル相場で通貨が急落してしまいます。それが周辺のアジアの国々に伝搬したのが、1997年のアジア通貨危機です。

これによって資金繰りが危うくなり、回収し始めた投資家が、1998年に入るとロシアやブラジルからも資金を引き揚げていきます。アジア通貨危機の影響で外貨を稼げなくなっていたロシアでは、この資金引き上げを発端にルーブル危機が起きます。これは世界規模に広がり、世界中の新興国からの資金逃避の流れを引き起こしました。これにより、これまで世界の経済のけん引役と思われていた新興国の経済成長が、しばらくの間滞ることになりました。

現在は、このような危機を踏まえて経済学の研究が進んでおり、対策を講じることができるものの、今回も同様の状況になる可能性があります。日本はコロナショックに比較的落ち着いて対応できているように思えますが、グローバルでいろいろな国々がつながる現在、途上国の経済の失速は世界の問題です。途上国への投資とそれにより引き上げられた生産力と需要の増加の恩恵をうけている先進国も対岸の火事ではありません。

※3 自国通貨と米ドルの為替レートを一定に保つ制度

SECTION 4/6

格差・社会問題の解決にどう取り組むか?

──学生Nさん:途上国のお話がありましたが、格差が広がると、恵まれない国や地域がますます貧しくなってしまうでしょう。私は社会問題の解決にも取り組んでいきたいのですが、世の中はどうしても経済や利益優先に見えます。ここについてはどう考えていますか?

織田:まず、社会課題か利益か、という価値観のような社会通念に関する考え方は、先進国視点のものです。途上国の場合貧しいので、第一に経済を回さないと社会自体が崩壊します。人の幸福度や安定性について思いを巡らせることができるのはそれだけ豊かな状態だということです。

質問の答えとしては、社会問題の解決と経済成長は相反せず、両立できるものだと考えています。社会の課題を解決することは、すなわち人々や市場のニーズに応えることです。そしてニーズがあることはビジネスチャンスそのものなので、これを実行することで経済を回すことができるからです。

しかし、少々手厳しい話ではありますが、社会貢献性の高い領域でビジネスをするのは大変難しいのもまた現実です。だからこそ、教育のように採算が取りにくいが社会的に重要な分野には、多くの国が予算を割いていますよね。また、最近は利潤追求をせず、ソーシャル・ビジネスを行うNPOやNGOの数も増加しており、今後彼らが今の行政の一部の役割を担い、ますます存在感が高まると考えています。

また、世界の強弱が鮮明になると、途方も無いお金持ちも増えていきますが、一部の富裕層では、自らの資産を将来の課題に使う動きが生まれています。マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏も、奥様と基金を立ち上げて莫大な額の寄付を行っていますよね。NPOやNGOの団体は、このような資金を上手に使うことで、これまで行政などに頼っていた課題解決の一部を担うことができるでしょう。

SECTION 5/6

不安定な状況では「情報リテラシー」が必須

川村:ここからは、このような世の中の状況で、どのようにキャリアを築いていくべきかという話に入りたいと思います。織田さん、これから何を身につけ、重視していくべきでしょうか?

織田:これに関しては、私が答えを言ってはいけないものだと思います。正解はないですし、一人ひとりが自分で考える必要があります。

物事を考えるために欠かせないのは、情報リテラシーです。普遍的なスキルではありますが、ほぼすべての人は自分に都合の良いポジショントークをするので、情報を正しく理解するためには、どのような背景や知識を持つ誰が、何を根拠に発信したのかを考えることが非常に重要です。

世界から情報を集め、情報リテラシーを高めるには、SNSはとても良いツールだと思います。私はFacebookで、世界中の良い友人たちがシェアしてくれるニュースを見て情報収集しています。様々な観点から情報を集めることができるだけでなく、関心の高いニュースに「いいね」を押しているとレコメンド機能が働き、自分のタイムラインには関心のあるものから順に表示されるので非常に便利です。今であればコロナのニュースを50カ国くらいの視点で見れています。

また、情報を検索する際は英語を用いましょう。日本語の検索だけだと情報が限られますし、日本人のポジショントークしか入ってきません。今後英語はこれまで以上に使われることになるので、苦手な方は自粛中の時間がある時期に、しっかり勉強するのもよいのではないでしょうか。

インターネット上で使用されている言語の割合
Q-Success社「Usage statistics of content languages for websites」をもとに作成

SECTION 6/6

「他人」や「世間」でなく、自分を軸に、決めたことを正解にする

──学生Aさん:このような状況ですが、自分が興味がある分野というよりは、デジタル領域などの成長領域でキャリアを築いたほうがいいのでしょうか?

織田:自分の人生を幸せに歩むほうが大切ですので、伸びているからデジタルになびくというよりは、自分が興味のある分野に飛び込むのがいいと思います。関心の高い領域に飛び込み、挑戦すれば、おのずと手段であるデジタルやITに携わるようになるのではないでしょうか。自分の興味があり、かつ成長している領域にてキャリアを積むことは可能だと思います。

キャリアや人生に正解はありません。自分で決めたことを正解にすべく歩んでいくのが重要です。どの領域でキャリアを築くのがいいかという話もそうですが、みなさんは正解を探しすぎな傾向にあると思います。他人や世間のものさしを気にしすぎず、自分の頭で、自分の価値観で、やるべきことを考えましょう。

よく「織田さんはどんな人を優秀だと定義していますか?」と聞かれます。企業の人が採用したいのはどのような人なのかを知りたいという意図の質問だと思うのですが、これにはいくつもの答えがあります。一つ例を挙げるなら「周りにポジティブな影響を与える良い人」ですが、勿論それだけではありません。コミュニケーション能力が低いが思考力に優れた理系院生も、活発に周囲をまとめる体育会系の学生もそれぞれ優秀で、それぞれが評価されうる場所があります。ですから、他人の一つの評価を気にしすぎずに、自分の価値観で、自分に合った池を探すのが、就活のみならずキャリア全般において、とても重要です。

──学生Oさん:とはいえ、世の中の変化を捉えながらも、自分で考え自分の価値観でキャリアを築くのは怖く、難しいと思っています。どのように力をつけていけばいいのでしょうか?

織田:スキルの前に「考え方」の鍛錬が大切だと考えています。正解はないことを受け入れて、間違えたら軌道修正すればいいというマインドで物事に取り組むことが大切です。皆さんが一生懸命取り組んできた受験勉強は、そのようなマインドが身につかないからこそ、難しく感じるのでしょう。現実世界の前提条件は頻繁に変わりますし、問題集に取り組んでから本番に挑むこともできません。

いきなり大きく考え方や行動を変えるのは難しいかもしれません。しかし、不確実な世界で戦うためにはマインドを鍛えることが大変重要です。いきなりホームランを打とうとするから難しく、怖く感じるのです。まずはボールをバットに当てるところから、小さな成功で自分に自信をつけ、少しずつチャレンジできることのハードルを上げていきましょう。マインド論というと、根性でどうにかすることばかりにスポットライトが当たりがちですが、根性だけではダメで、ひとつずつ失敗を繰り返しながら進んでいき、最終的にやりきるという積み重ねがとても大切です。

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