COLUMN

総合商社のイメージをアップデートせよ。業界のビジネスモデル変革を先駆ける伊藤忠商事の挑戦

総合商社といえば就活生に高い人気を誇る業界ですが、皆さんはその現状を正しく把握できているでしょうか?華やかなイメージがある企業ほど主観的な憧れが先行し、客観的に捉えることが難しくなることがありますが、総合商社業界はその典型と言えます。本記事では、伊藤忠商事を例に総合商社が直面する課題や、これからの商社パーソンに求められる人材像について紐解きます。

SPONSORED BY 伊藤忠商事株式会社

話し手

中元 寛

中元 寛

伊藤忠商事株式会社
第8カンパニー GM(ゼネラルマネージャー・デジタル戦略担当)

浦島 宣哉

浦島 宣哉

伊藤忠商事株式会社 人事・総務部長

SECTION 1/7

商社のライバルが商社でなくなる時代

華やか、グローバル、安泰―。このようなイメージから総合商社を志望している学生はとても多いでしょう。しかし、もしこのイメージだけを持って商社に就職しようとしているのであれば、マインドセットを変える必要があるかもしれません。

歴史を振り返ると、商社は時代に合わせて変化と成長を繰り返してきました。中でも大きな変革と言えるのは、トレーディングから事業投資・経営への方針転換でしょう。総合商社各社は今でこそ数千億単位の純利益を出していますが、過去には業績低迷に苦しんだ厳しい時期もありました。

バブル崩壊や90年代後半からの情報化の進展等を経て、メーカーが商社を介さずにビジネスを行うようになると、高度経済成長期に日本経済において大きな役割を果たしていた商社のトレーディング機能の意義が問われるようになったのです。

商社そのものの存在価値が問われる危機に直面しても、各社はそこで事業投資・経営へと大胆に舵を切り、苦しい時代を乗り越えたことで飛躍的な成長を遂げます。あらゆる産業に対してネットワークを持ち、トレーディングと事業投資を組み合わせるビジネス形態は、海外に例がなく日本独自のビジネスであると言われています。

そして現在、総合商社は再び大きな変革を迫られています。2017年にAmazonがアメリカの大手食品小売店を買収したことは、インターネットビジネスがリアルビジネスに攻め込む象徴的な出来事でした。急速なデジタル化の進行によってあらゆる産業構造に地殻変動が起きる中で、これからはAmazonのようなITプラットフォーマーとどのように戦っていくかという戦略が、総合商社に求められています。

そうした状況に対する危機意識から、新しい商社像の確立に向けていち早く歩みを進めているのが伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)です。デジタル化の時代に、商社ビジネスはどのように変化し、変革期を迎える総合商社にはどのような人材が求められるのでしょうか。伊藤忠商事の第8カンパニーでデジタル戦略担当を務める中元氏と人事・総務部長の浦島氏にお話を伺いました。

SECTION 2/7

デジタル化によるゲームチェンジ。商社ビジネスに何が起こる?

中元 寛 氏

伊藤忠商事株式会社

第8カンパニー GM(ゼネラルマネージャー・デジタル戦略担当)

1991年、伊藤忠商事株式会社入社。ファミリーマートや金融事業会社への出向経験を経て、2019年7月より現職。二度目のファミリーマート出向時にFamiPay事業を立ち上げ、ファミリーマートにおけるデジタルの顧客接点を設計。

浦島 宣哉 氏

伊藤忠商事株式会社

人事・総務部長

1987年、伊藤忠商事株式会社入社。保険営業開発部長、住生活・情報経営企画部長、食品流通部門長代行、生活資材部門長などを経て現職。香港、シカゴ、ニューヨークに駐在し、多様な業界においてキャリアを経験。2021年4月に株式会社ファミリーマート 取締役常務執行役員 CSO兼経営企画本部長に就任予定。

(左)中元 寛 氏 (右)浦島 宣哉 氏

──伊藤忠商事でデジタル戦略に携わる中元さんは、デジタル化が商社ビジネスにどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

中元:デジタル化が私たちのビジネスにもたらした一番大きな変化は、10~20年前に比べて、より消費者視点のサービスやプロダクトづくりが求められるようになったことです。

従来の商売は、メーカーが物を作って卸に渡し、卸から小売りへと商品が流れ、小売店に並んだ商品を、CMを見た消費者が購入するという、川上から川下への垂直な商流がありました。その中で消費者は、バリューチェーンの川下に位置づけられていました。

しかし、スマートフォンが広く普及し、クラウドやAPIなどの技術開発が進んだことで、業種業態の垣根を超えた取引が容易になり、バリューチェーンの組み合わせが自由になりました。

本を買うことを例に考えてみましょう。昔は本は本屋でしか買えず、消費者の選択肢は品揃え豊富な大きい本屋に行くか、専門書を扱う小さい本屋に行くか、近所の本屋に行くかぐらいしかありませんでした。しかしAmazonの登場により、Amazonでも他のインターネットサイトでも本を購入できるようになりました。また、本がデジタルデータとして流通するようになり、今では紙の書籍を手に入れなくても、Kindleやスマートフォンで読むことができます。

このように、従来のバリューチェーンにおける川上から川下までの各工程が分散され、モジュール化が進んだことで、その組み合わせの数だけ消費者の選択肢が増えたのです。結果的に消費者が以前に増して強い力を持つようになりました。

また、このような消費者が力を持つビジネス環境においては、多くの顧客とデジタルで接点を持つITプラットフォーマーが巨大なパワーを持ちます。ご存知の通りAmazonはECだけでなく、物流、クラウドサービス、エンタメなどあらゆるサービスを自社で提供し、集客力を高めてきました。そうして蓄積した大量の顧客データを強みに、広告プラットフォームとしても米国で3位の地位を獲得しています。

デジタル化によって、商流や業界の枠組みまでもが大きく変化する状況を目の当たりにし、私たちは「従来の商社のビジネスモデルに留まっていては、すぐにITプラットフォーマーに太刀打ちできなくなる」という強い危機感を持っています。

※API : Application Programming Interfaceの略

SECTION 3/7

マーケットインの発想で、商社の価値を再発掘する組織

──中元さんの所属する第8カンパニーは、伊藤忠商事のデジタル戦略において中心的な役割を担っていると伺いました。どのような組織なのか詳しく教えてください。

中元:当社はこれまでプロダクト毎にバリューチェーンを構築し、トレーディングや事業投資を通じて拡大することで収益を最大化してきました。しかし、それだけでは外部環境の変化に対応できないと考え、2019年に第8カンパニーという新組織を設立しました。

第8カンパニーの特徴は、市場や消費者のニーズに応えるマーケットインの発想で価値創出を目指す点にあります。従来の商社ビジネスはプロダクトアウトの考え方がベースにあるため、組織編成も商品やサービスを軸にした縦割でした。それに対して第8カンパニーは扱う商品やサービスが特定化されておらず、既存のカンパニーと協働しながら業界横断での取り組みを進める役割を担います。

また、仕事を進める上ではリーン&アジャイルを重視しています。変化のスピードが速く、先を予測するのが困難な時代には、リスクを最小限に抑えながら新しい取り組みを小さく始め、気付いたことをスピーディーに改善していくことが必要です。スピード感を持って意思決定を行うため、プロジェクト単位でメンバーが柔軟に入れ替わる少人数の組織体制にしており、既存のカンパニーが数百名規模であるのに対し、第8カンパニーはわずか40名ほどで、部や課は存在しません。

先ほどお話ししたように、デジタル時代に対応した新しい商社ビジネスの形を創り上げていくためには、発想の起点を消費者に置き、どうすれば消費者がもっと便利で楽しくなるかということを考える必要があります。第8カンパニーを中心にマーケットインの発想がより浸透すれば、我々が構築してきたあらゆる産業に対するネットワークやノウハウを活かして、これまでとは全く違う新しい価値創出が可能になるはずです。

SECTION 4/7

伊藤忠商事の強みを活かした、リアル×ネット融合の新たな挑戦

──マーケットインの発想での新しい価値創出とは、具体的にはどういうことでしょうか?

中元:商社の中でも消費者関連ビジネスに強いと言われる伊藤忠商事の強みを活かし、リアル×ネットの融合を進めることに取り組んでいます。その第一歩として、2020年9月に伊藤忠商事、ファミリーマート、NTTドコモ、サイバーエージェントの4社で「データ・ワン」というインターネット広告事業の合弁会社を設立しました。

伊藤忠グループのファミリーマートは全国に1万6500店の実店舗を構えており、1日約1500万人が来店します。年間累計で55億人が訪れる計算なので、店舗で得られる情報をデジタル化することで強いプラットフォームになり得ると考えています。店頭での購買データに加え、携帯キャリアの持つリッチな情報を掛け合わせることで付加価値を高め、更にはネット広告でトップの会社にも入ってもらうことで、消費者により面白く有益なサービスを提供するのが狙いです。

このように伊藤忠商事がこれまでリアルビジネスで築いてきた強みを、デジタル化の文脈の中で活かすことができれば、私たちが新たなビジネス・エコシステムのコアになれる可能性は十分にあるでしょう。米国の事例でみても、世界一の小売店として顧客とのリアル接点に強みを持つWalmartが、データ活用を進めることでAmazonを猛追しています。

──面白いですね。普通だったら結びつかないような業界大手企業を巻き込んでいるところが総合商社ならではですよね。

中元:私たちはモノを作ってはいませんが、「ラーメンからロケットまで」と言われるくらい幅広い事業を手掛けています。その過程で独自のネットワークを構築しているので「これとこれを繋ぎ合わせると新しい価値を生みだせるんじゃないか」という発想のもと、能動的に働きかけてビジネスの形態に作り上げていきます。大規模な事業構想を打ち立てるだけではなく、実際に収益を生み出すビジネスとして事業そのものを運営していくところまで担えるのは、商社パーソンならではの価値発揮の仕方だと思います。

SECTION 5/7

ファミリーマート出資後の苦労裏話。伊藤忠商事のビジネスモデル変革の原動力は社員一人ひとりの改革マインド

──総合商社の持つオーガナイズ機能はデジタル化が進んでも変わらない強みと言えそうですね。ファミリーマートへの出資後に新しい金融ビジネスが導入されたのも、中元さんの提案がきっかけだったそうですがその時のことについて教えてください。

中元:当時の伊藤忠商事はトレーディングビジネスの限界に直面し、非常に厳しい経営環境にありました。私はその時30代で金融保険部門にいたのですが、「このままのビジネスモデルを続けていてはダメになる」という考えから、年齢の近い中堅社員4人で集まり、平日の仕事後や週末に新規事業を考えていたんです。

そしてファミリーマートを起点にした新しい金融ビジネスを立案して、カンパニーの方針を決める総会をジャックして企画のプレゼンを行いました。あとで事務局にはものすごく怒られましたが、その話がカンパニープレジデントや社長の耳に入ったことで、私はファミリーマートに出向して金融事業の立ち上げをやらせてもらうことになりました。

その頃のファミリーマートはまだ全国で3000店舗程度で、伊藤忠商事の出資比率も30%ほどだったのですが、そこからの店舗拡大や数々の新規事業の立ち上げの過程で色んな苦労と喜びを経験できました。そうした経験が、直近のファミペイの立ち上げやデータ・ワンの設立などの出来事につながっています。

浦島:ファミリーマートに出資した1998年のことは私もよく覚えています。会社が厳しい状況なのに、こんなにお金を使って大丈夫なのかと実は個人的に心配していました。今となってはファミリーマートが伊藤忠商事の消費者ビジネスの根幹になっているので、英断でしたよね。

中元さんだけでなく、当時はみんな一生懸命に努力し、勉強してビジネスモデルを変えることに必死だったんです。知識もないところからスタートして本当に苦労しましたが、私もトレーディングから事業投資・経営へ移る最前線で、M&Aや子会社の社長、営業部門で150名の部下のマネジメントなど沢山の経験を積みました。

商社というとトレーディングのイメージが強く、もしかするとずっと同じようなビジネスモデルでやってきたように見えるかもしれませんが、実は時流の流れに合わせて時には痛みを伴いながらも変わり続けてきたんです。

SECTION 6/7

商社に安定はない?変革期に求められる人物像

──人事・総務部長の浦島さんにお伺いします。商社ビジネスの変化に合わせて御社が求める人物像も変化しているのでしょうか?

浦島:これから当社に求められる人物像の要素を挙げると3つあります。まず、世の中に幅広くアンテナを張り情報を収集できること。そして収集して終わりではなく、市場や社会の変化を敏感に捉え解決する方法や課題を見極めること。最後に、商社パーソンとしてそれらを踏まえて様々な関係者と交渉し、案件を価値あるものに仕立てていくことです。

ただ学生の皆さんには、求める人物像の前提にある、商社の歴史と現状を正しく把握してもらいたいですね。今でこそ業績好調ですが、実は20年前には商社の存在意義そのものが問われる苦しい時代があり、赤字決算を経験したこともありました。その時に会社全体としてビジネスモデルから、組織制度、評価制度に至るまで大きな変化を乗り越えた経験の後に、現在の商社があります。

今、私たちは20年前と同じような大きな変革を求められる状況にあるという認識を持っています。先ほどの話にあったAmazonが日本でサービスを開始したのは2000年です。わずか20年でこれだけのインパクトを持つ会社になったのです。

総合商社はこれからも成長していく必要があります。この20年間でどうして商社がAmazonのようなビジネスを構築できなかったのか、ということと真摯に向き合わなければいけないと思います。社員一人ひとりにそうした大きな危機感があるからこそ、次の10年20年で変化をスピーディーに起こすための新しい取り組みを進めています。

もし「給与が高く、会社の業績も良い、かっこいい。」そういう理由で商社を選ぼうという人がいれば、今のうちにやめた方が良いと思います。商社は決して安定している業種ではないからです。しかし逆を言えば、会社が転換期にあるからこそ、挑戦する機会は沢山あります。この危機をチャンスと捉え、「ここで自分を試したい、成長したい、自分が会社を変えていきたい」というような気概のある人に、是非伊藤忠商事の門を叩いてほしいと思います。

SECTION 7/7

求められるのは自律型人材。就職活動のマインドセットを変えよう

編集部:既に高い業績をあげている一流企業に入れば自分の身も安泰だ―。そう考えて企業選びをしている人は少なくないかもしれません。不確実性が高まる世の中に対する不安から就職先に安定を求める学生が増えている傾向も見受けられます。

一方で日本経済をリードする伊藤忠商事のような大企業は、現在のビジネス環境に危機意識を持ち、会社の変革を共に担えるような若手を求めています。これは伊藤忠商事に限った話ではありません。

どんなに安定して見える企業でも、激動の時代を生き抜くためには絶えず変化を続けることが必要になるでしょう。そうだとすれば、就職活動やキャリア形成においても、会社が用意するものを待つ姿勢では通用せず、自律的なキャリア観を持ち、主体的に会社の変革に携わる気概を持つことが重要です。

「安定はない」と聞くと不安に思うかもしれませんが、個人のキャリアにとっては前向きに捉えることができます。会社が大きく転換するタイミングこそ、若くて柔軟な人材がチャンスを掴みやすいのです。中元氏や浦島氏が「会社の変革期に最前線で活躍した経験が現在に繋がっている」と語るように、成長機会をしっかりと自分の糧にすることができれば、ビジネスパーソンとしてかけがえのない経験を積めるでしょう。

今ここからのキャリア形成では「身を委ねるための安定した会社を探す」ではなく「自分がチャレンジするのに相応しい舞台を探す」というマインドに切り替えましょう。そうした能動的な姿勢は、きっと皆さんの就職活動を良い結果に導いてくれるはずです。

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