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COLUMN

「没頭」が道を拓く。他者の評価軸から脱却し自己決定するためのキャリア論

「とりあえず有名企業に入ればつぶしが効く」と考え、汎用性が高いほど安心だと思い込んでいませんか?将来の選択肢を残すための合理的な選択に思えますが、ブランドや他者の評価に判断基準を委ねてしまうことは、長期的なキャリア形成においてリスクを伴う可能性があります。今回は、延べ5000人の就活をサポートしてきたGoodfind講師が、長期的な幸福をもたらす「自己決定」の重要性と、後悔しない企業選びの視点を解説します。


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話し手

M.T

M.T

スローガン株式会社
Goodfindセミナー講師 兼 キャリアアドバイザー

SECTION 1/4

就活における“正解”とは何か?

⸺日頃からイベントや面談で学生と接する中で、「とりあえず有名企業に入れば安心」という声が多いと伺いました。なぜ就活において、こうしたわかりやすい正解やゴールを求めてしまうのでしょうか?

M.T:これまでの学校生活や受験を通じて、あらかじめ用意されたわかりやすい基準で評価される環境に慣れているからだと考えています。

大学受験までは偏差値や得点といった単一の基準で測られるため、“正解”が比較的明快でした。これまで真面目に努力してきた学生ほど、就活もその延長線上にあると捉え、難易度の高い企業から内定をもらうことがゴールだと無意識のうちに認識してしまう構造があるのだろうと思います。

しかし、就活はそうではありません。価値観や強み、企業との相性といった多様な観点に基づいて、自分が納得できる選択基準を自分自身で見出していく必要があります。

⸺これまでの環境で染みついた癖で、無意識に“正解”を探してしまうのですね。学生にとって“正解”に見えている基準や選択は、キャリアにおける正解ではないのでしょうか?

M.T:そもそもキャリアに“正解”はないと考えましょう。特に変化の激しい現代において、社名やブランドの価値は何十年と続くキャリア全体を保証してくれるものではないのです。

皆さんが抱く有名企業や人気企業のイメージは、実は親世代に作られた過去の姿であることが多く、その企業の現状や未来の姿を正確に表すとは限りません。企業のフェーズや役割は時代とともに変化するため、今有名企業に入社したとしても当時と同じ経験を積むことは難しいでしょう。

それは、時代を牽引する人材輩出企業の変遷を見ても明らかです。たとえば1990年代、黎明期の外資系コンサルティングファームは後の事業家を多数輩出しました。彼らにとって価値があったのは、コンサルタントという職種よりもむしろ、新しいビジネスモデルを一から創る仕事に挑戦できた環境です。一方で、仕組みが成熟した現在のファームでは、コンサルタントの職能を磨くことはできるものの、当時のような事業家を目指すキャリアには直結しない可能性があります。

⸺企業のフェーズや人材輩出企業の顔ぶれが変わっているとはいえ、「ファーストキャリアとして有名企業に入ることは、その後の選択肢を広げる上で有利になる」と考える学生も多いと思います。

M.T:たしかに、入社2〜3年目のうちは実務での実績を証明することがまだ難しいため、学歴・社名をベースにしたポテンシャルが評価基準になりやすいと言えるでしょう。たとえば、外コンや投資銀行から第二新卒で転職しやすいのは、前職のブランドが通用しているというよりは、「若くて地頭が良い」というポテンシャルがあるとみなされているからです。

しかし、20代中盤に入るとフェーズが変わります。入社して数年が経つと、活躍する人はすでに一定の実績を証明し始めており、「実績で語れる人」と「そうでない人」で市場価値の差が開き出します。

30歳頃になると、評価の基準は「その領域で何ができるか」という実績や職能へと移行します。ブランドを盾にして職能の獲得を後回しにしていると、30歳になった時点で「高い給与を要求するが、特定の領域においては1年目以下の実力しかない」という市場価値のねじれが発生しかねないのです。ここで問題になるのは「有名企業に行くこと」ではなく、「思考停止でブランドに頼り、職能の獲得を先延ばしにすること」です。

採用する側の視点に立てば、30歳の未経験者に、22歳の新人と同じ熱量を期待し、かつ高い給与を払う合理的な理由はありません。つまり、「とりあえず有名企業に入れば選択肢を担保できるだろうし、後からやりたいことを探そう」という考え方は、一見安全な選択をしているようで、実は長期的なキャリア形成に対して非常に大きなリスクを孕んでいるのです。

SECTION 2/4

年収ではない、幸福感を決定する要因とは

⸺とはいえ、就活時点で自分の専門性を決めることも難しいと感じます。「つぶしが効く」ような業界・職種を選ぶことで、様々な可能性を将来に残せるのではないでしょうか?

M.T:「つぶしが効く」ことを優先し、実際の配属リスクや自分自身の適性を無視した選択をしてしまうと、かえって入社後のミスマッチや早期離職を招く原因となります。学歴や職種に関わらず、新卒入社後3年での離職率が約3割 ※1 にも上るのは、自身の適性や価値観を十分に考慮しきれなかった企業選びによるミスマッチが影響していると言えるのではないでしょうか。

※1 参照:厚生労働省「新規大卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)

当たり前のことですが、すべての仕事において自分に適性があるとは限りません。周囲がそれとなくこなしている仕事でも、自分には適性がなく成果を上げられない可能性もあります。そういったミスマッチが生じないよう、就活の段階で可能な限り自身と就職先・業務の解像度を上げ、自らのポテンシャルを最大限発揮できる場所を選ぶ必要があるのです。

⸺自身の適性よりブランド・社名に頼ることの方が、かえってリスクが大きいとわかりました。そもそも、自ら基準を見つけて選択することが重要なのはなぜでしょうか?

M.T:キャリアにおける本当の幸せは、他人の評価や世間体ではなく自己決定によってもたらされるからです。RIETI(経済産業研究所)の研究 ※2 によれば、日本人の幸福感を決定する最大の要因は、所得の高さでも学歴の高さでもなく、「自分で進路を選んだ」という自己決定の感覚であることがわかっています。

※2 参照:経済産業研究所「幸福感と自己決定―日本における実証研究(改訂版)」(2020年6月)

社会に出ると、誰もが認める絶対的な幸せはありません。自らの人生における自己決定権をしっかりと握り、自分が幸せだと感じられる道を自分自身で選択していくという覚悟を持つことが、長期的なキャリアの充実へと繋がっていきます。

SECTION 3/4

AI時代、最大の資本となるのは「没頭」

⸺長期的なキャリアの充実のために、新卒入社先の意思決定の判断基準となるものを教えてください。

M.T:自分が熱中・没頭して面白がる力を発揮でき、高いパフォーマンスを出し続けられる場所かどうかです。

多くの企業で、給与は「業界の成長率・利益率等の水準」という定数と、「個人のパフォーマンス」という変数の掛け算で決まります。大半の学生は定数に目を奪われがちですが、一人の労働者が主体的にコントロールできるのは、変数である自身のパフォーマンスです。この変数を最大化するためには、組織が求める役割と自身の強みの重なりを見抜き、高い成果を上げて上位20%に入り続けられるかを見極めることが重要です。

当然ではありますが、成果を出し続けている状態に達するには、優れた職能を身につける必要があります。数年かけて磨いた実務スキルがプロンプト一つでAIに代替されてしまう現代においては、新しい職能を次々と学び続けるための熱中・没頭やそのプロセスを楽しめることこそが最大の資本になるでしょう。

⸺就活時はどのような観点で考えていくと良いでしょうか?

M.T:自己分析の過程で、熱中や没頭に結びつく自らの内発的動機を「どの役割(職能)」で「どの市場(領域)」であれば活かせるかという「職能 × 領域」の掛け算に落とし込んでいきます。これは、自分の没頭できることを仕事として表現するためのボキャブラリーを探す作業とも言えます。

その掛け算を複数見つけていく中で、「もっとも自分が結果を出せそう」「ハッピーになれそう」といった観点から比較検討を重ね、選択肢の精度や納得度を高めていきます。

⸺内発的動機を職能と領域に分解し、就活時の意思決定に繋げていくプロセスが重要だと理解しました。ただ、没頭できる対象がすぐには思いつきません。考えるヒントはありますか?

M.T:没頭できる対象を見つけるには、まずは自分自身が一番時間をかけてきたもの、投下時間が長いものから探っていくと良いでしょう。

ここで言う価値観とは、ただの好き嫌いや推し活のようなものではありません。何が起きるとモチベートされるのかという、時間を忘れてやれることのスイッチを言語化することが重要です。テンションが上がったり、逆にモチベーションが下がったりと、自分の気持ちを上下させるトリガーとなるものです。

その際、もっとも気をつけなければいけないのは「外発的動機ではないこと」です。人に強制されたから、褒められたい・承認されたいからやるのではなく、辛いことも含めて自分が楽しいからやっている状態を指します。

多くの学生は、ガクチカのような直近のわかりやすい結果から探そうとします。しかし、物心がついた後では内発的動機と外発的動機が混ざってしまうため、外部環境からの影響が少ない幼少期に熱中していたことまで遡って分析できると良いでしょう。

とはいえ、無意識のトリガーは自分一人では気づけません。年上の社会人とたくさん話し、面接などで過去を深掘りしてもらうことで、無意識の領域を開放していくことをおすすめします。

⸺もし自分の「没頭(内発的動機)」と親や周囲の期待が相反したら、どう考えると良いのでしょうか?

M.T:年収や社格、あるいは親にとっての幸せを叶えてあげることが自分自身の心からの幸せだと思えるなら、外発的動機に従って生きるのも自己分析した結果の選択の一つかもしれません。

ただし、もし親が望む道を辿ってうまくいかなかったとしても、親は責任を取ってくれません。その時に「親が言ったから」と言い訳せずに、すべてを甘んじて受け入れる覚悟が必要です。

キャリアの選択は、最終的には自立と自己責任の領域です。社会に出る前に、周囲の期待や自分の思考の癖を見つめ直し、自分の人生に残すものと捨てるものを選択して成熟していくことが重要であると考えています。

SECTION 4/4

企業の求める人物像に合わせず、自らを軸とした自己決定を

⸺目の前のサマーインターンや本選考に対して、最終的に納得の意思決定をするためにはどのようなマインドで臨めると良いでしょうか?

M.T:特にサマーインターンは内定を獲得するためではなく、トップ層の学生に揉まれて自分の現在地を知る“実戦模試”として活用するマインドで臨んでください。

企業にとって、サマーインターンは優秀な層へ自社を知ってもらうためのマーケティングや、次世代を担うポテンシャルの高い人を早期に発掘する側面が強いイベントです。企業側もこの時期の学生の志望動機が固まっていないことは理解しており、ミッションへの深い共感よりも、5〜10年後に開花するポテンシャルや、一緒に頑張れるカルチャーフィットを見ています。だからこそ学生側も、今の自分が市場でどれだけ通用しないかを知り、足りない部分に気づく成長の起爆剤としてインターンを活用できると良いでしょう

また、最初から志望業界や企業規模を絞り込むのではなく、目安として40社程度を幅広く受けて比較検討することをおすすめします。最初から特定の企業や業界だけに絞ってしまうと、無意識のうちにその選択を正当化するバイアスがかかってしまいます。他と比較した上で「やはりここが良い」と言える状態を作らなければ、キャリアの確からしさを引き上げることはできません。

そして、面接などの選考機会を通じて、自分が相手にどう見えているかのPDCAを回すことも重要です。自分の強みや価値観と、その根拠となるエピソードの対応表(マトリックス)を作成して面接に臨んでみてください。対応表を作ることで、どのエピソードでどの強みや価値観を伝えるかを整理できます。

その上で、逆質問の時間を活用して「今日の面接で、私がどのような人間に見えたか」を面接官に聞いてみます。自分が伝えようとした要素がどう伝わったのか、客観的なフィードバックを得ることで、伝え方をアップデートできます。

⸺多くの企業を見ていると、時には自分らしさを見失うこともあります。就活を通して意識しておきたいポイントを教えてください。

M.T:行きたい企業が求める人物像に自分を無理に合わせるような、企業起点の就活に陥らないよう気をつけましょう。

企業に自分を寄せていくアプローチは、自分本来の価値観を見失わせる大きな罠です。自分を無理に合わせた自己PRで選考を通過できたとしても、入社後にミスマッチを生み、結果として早期離職に繋がってしまう可能性があります。

様々な企業を比較検討する際は、ただ漠然と見るのではなく、企業と自分を繋ぐ「事業・成長・環境」の3つの軸で検証を行うことで、自分なりの判断基準が明確になります。「事業」はミッションへの共感、「成長」は自身のポテンシャルが活かせるか、「環境」はカルチャーフィットするか、という観点です。企業に寄せた検証にならないよう、この3点を客観的に確認していく意識が重要です。

就活は、誰かに選別されるものではなく、自分自身を活かせる場所を探すためのものです。就活を仮説検証の場として幅広く活用し、納得できる自身のキャリアを自己決定していきましょう。

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