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大企業でありながらスタートアップ的な企業はどこか?時代を超えてイノベーションを起こし続ける秘訣
皆さんは「革新的な日本の大企業」と聞いてどこを思い浮かべますか? 「大企業はイノベーションが苦手だからスタートアップに投資や協業しているのでは?」と考えている人もいるでしょう。
歴史ある数々の大企業もはじまりはベンチャー・スタートアップでした。しかし、時間とともに成熟して大企業病と呼ばれる制度疲労を起こしていく会社も多くあります。他方で、時代を超えてもイノベーションを起こし続けて、スタートアップ的な仕事の仕方を続ける企業も稀にあります。
大企業なのにスタートアップ的な会社と言えば、米国主要IT企業のGAFAをイメージするかもしれません。そして日本企業の中では、ソニーが最も近い存在かもしれません。
そこで今回は、日本発の世界的大企業、ソニーに注目。企業の平均寿命が短縮化する潮流の昨今、同社は創業から74年の歴史の中で、イノベーションを起こし続けています。Goodfind創業者・伊藤が、同社の歴史と多様な事業群、そして人材開発を紐解き、革新を続ける大企業の秘密を探ります。
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「イノベーション企業ランキング」1位アップル、2位グーグル。唯一トップ10の日本企業は?
学生の皆さんはソニーと聞いて、何を連想しますか? ゲーム、音楽、それとも金融でしょうか。一方で、皆さんの親世代にソニーのイメージを聞くと「ウォークマン®やハンディカム®にお世話になった」と、当時の感動を思い起こすでしょう。
1946年に「自分たちの技術を世の中に役立てていきたい」との思いから始まったソニー※1 は、その後数々の画期的な製品を生み出し、世界を席巻する総合電機メーカーに成長。バブル期には株式市場でもハイテク企業の象徴となりました。ハードのみならずコンテンツ事業や金融事業など多様な分野に進出し、現在は多岐に渡る事業ポートフォリオを持つ、社員約11万人の世界的なグループ企業です。
一方、2000年代には業績低迷が続き、一時は経営危機を囁かれたこともありました。しかし、主力事業の大規模な再編、さらには2012年から構造改革を推し進めた結果、近年「世界のソニー」は復活を遂げ、成長を続けています。
業績は好調で2018年度(2018年4月~2019年3月)通期での営業利益は過去最高を更新。また2019年12月には株価が18年ぶりの高値を付け、2001年以前の水準に回復。さらには、ボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)が2020年6月に発表した「イノベーション企業ランキング」※2 において、日本企業として唯一トップ10にランクインしました。
※1:2021年4月1日付で「ソニー株式会社」は「ソニーグループ株式会社」に商号変更予定。
※2:BCGによるイノベーションに関する調査レポート「The Most Innovative Companies 2020: The Serial Innovation Imperative」に掲載。
ランキングで上位を占めたGAFAや中国主要IT企業のBATHをはじめ多くの企業が、生き残りをかけて常に新しいビジネスモデルを模索し、場合によってはコアとなるビジネスモデルの変革を恐れずに進めています。
そのような企業群の中にランク入りするソニーですが、なぜ大企業になった今も、革新的な挑戦を続け、イノベーションに優れたテクノロジー企業として成長を続けているのでしょうか? 次章からはその理由を探るべく、Goodfind代表の伊藤が登場。15年以上に渡り革新的企業を見出してきた視点で、ソニーの歴史と事業の変遷を紐解き、革新性や成長の秘密に迫ります。
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元祖・日本発ベンチャーが持つ遺伝子
伊藤 豊
スローガン株式会社
代表取締役社長/Goodfind代表
東京大学卒業後、2000年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。システムエンジニアの経験の後、関連会社での新規事業企画・プロダクトマネジャーを経て、本社でのマーケティング業務に従事。2005年にスローガン株式会社を設立し、2006年よりGoodfindの運営を開始。人を軸にしたエコシステムを構成する事業グループをコンセプトに、イノベーション領域のHR関連事業を行う。
戦後の元祖・日本発ベンチャーといえば、やはりソニーでしょう。
ソニーの原点は、1946年に設立された東京通信工業という従業員20名ほどの小さな会社でした。創業者の一人である井深大氏が、会社設立の目的をこう記述しています。
技術者がその技能を最大限に発揮することのできる「自由闊達にして愉快なる理想工場」を建設し、技術を通じて日本の文化に貢献すること
この「自由闊達にして愉快なる理想工場」という言葉は、70年以上経った今聞いても心が躍るフレーズであることは、驚嘆に値します。
この言葉が記されているソニーの設立趣意書は、今もウェブサイトで全文を読むことができます。読み手のベンチャー精神を揺さぶる素晴らしい内容で、のちに多くの起業家に多大な影響を与えたことも頷けます。
真似ではなく、他の人がやらないことをやろうというソニーに根付く考え方は、井深氏の次の言葉に端を発します。
大きな会社と同じことをやったのでは、我々はかなわない。しかし、技術の隙間はいくらでもある。我々は大会社ではできないことをやり、技術のカでもって祖国復興に役立てよう
その言葉どおり、ソニーは技術を活かし、実に多くのものを生み出してきました。
日本初のテープレコーダーや日本初のトランジスタラジオ、トリニトロンカラーテレビ、世界初の家庭用ビデオテープレコーダーを発売。1968年にはCBS・ソニーレコード(後のソニー・ミュージックエンタテインメント)を米国CBSとの合弁で設立し、音楽事業に参入しました。
1970年には、日本企業として初めてニューヨーク証券取引所に上場しました。1979年に携帯型ステレオカセットプレーヤー「ウォークマン」を発売した後も、その勢いは衰えることはありません。世界初のコンパクトディスクプレーヤー、世界初のポータブルCDプレーヤーの発売と続きます。
1994年にはソニー・コンビュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が、家庭用ゲーム機「プレイステーション®」を発売します。
その2年後、ソニーコミュニケーションネットワーク(現・ソニーネットワークコミュニケーションズ)がインターネット接続サービス「So-net(ソネット)」を立ち上げ、インターネット事業領域にもいち早く参入。パソコンの「VAIO(バイオ)」は、日本に先行して米国で発売を開始。1999年にはエンタテインメントロボット「AIBO(アイボ)」も発売しました。
異業種にも参入を続けています。金融分野では1979年にソニー生命の前身であるソニー・プルデンシャル生命保険を設立し、1998年には現在のソニー損害保険となるソニーインシュアランスプランニング、そして2001年にソニー銀行を設立しています。
これだけでも、ソニーがいかに新しい挑戦を続けてきたか、おわかりになるでしよう。さらにソニーは、2000年前後のインターネットベンチャー設立にも、大きく貢献しています。例えば、金融分野のマネックスグループ、医療分野のエムスリー、Eコマース分野のディー・エヌ・エーが設立されるときに、主要株主として関わっています。日本のべンチャーを牽引してきたと言っても過言ではないのです。
ちなみに、現CEOの吉田憲一郎氏は、2000年にソニーコミュニケーションネットワーク(現・ソニーネットワークコミュニケーションズ)に出向し、2005年には同社の代表取締役社長に就任しています。2013年12月にソニーに戻り、4年間CFOを務め、2018年にCEOになっています。また、2000年からはエムスリーの社外取締役も務めています。
一方、現・CFOの十時裕樹氏は、2001年にソニー銀行の設立に携わり、2002年には37歳の若さでソニー銀行の代表取締役に就任しています。2005年には、ソニーコミュニケーションネットワーク(現・ソニーネットワークコミュニケーションズ)専務、その後副社長を経て、2013年にソニーに復帰しています。十時氏もエニグモやディー・エヌ・エーなど、出資先のべンチャーの社外役員を歴任しています。
つまり、二人とも、30代後半から新領域での子会社の立ち上げに携わり、経営経験を積 んだ後、のちにメガベンチャーとなる出資先の社外役員を務めているのです。
後で詳しく説明しますが、ソニーは今も多様な事業領域でチャレンジを続けています。ソニーが現在もクリエイティビティ溢れる会社であり続けられる要因は、この経営トップ2人の経歴だけを見ても十分に納得がいきます。社内ベンチャーで経験を積んだ経営層の存在が少なからず影響している、と私は考えています。
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テクノロジーとクリエイティビティで「人に近づく」
テクノロジーとクリエイティビティは、現在のソニーの強みでもあるようです。
ソニーは、創業時から脈々と受け継がれている「技術の力を用いて、人々の生活を豊かにしたい」という想いをもとに、2019年に企業としての存在意義を「Sony's Purpose & Values」として刷新しました。その内容は、「クリエイティビティとテクノロジーのカで、世界を感動で満たす」というものです。
ゲーム、音楽、映画、エレクトロニクス、半導体、金融と、多様な事業を展開してきたソニーですが、事業なら何でも良いわけではありません。人々に感動をもたらすために、人を基軸に捉え、「人に近づく」という経営方針で事業を展開しているのです。
一般的には、電機メーカーやテクノロジーの会社というイメージが強いので、「人に近づく」というコンセプトは意外に思えるかもしれません。
ソニーは人に近づくために、次の3つの方向性で事業を開発しています。
(1)人の心を動かす事業:
クリエイターとともに感動コンテンツをつくり、ユーザーに届けるコンテンツ事業およびDirect to Consumer(顧客と直接つながる)事業。
(2)人と人を繋ぐ事業:
ユーザーがコンテンツを楽しむために欠かせない機器を提供する事業。 世界中の人が感動を共有するために利用しているハードウェア事業とスマートフォンのキーデバイスであるCMOS(シーモス)イメージセンサーに関する事業
(3)人を支える事業:
車載センシング技術を使って「安全」を、メディカル領域では「健康」を、金融サービスでは「安心」を提供する事業。
このように、ソニーは実に多くの事業を展開していますが、多数の事業を持つことで得られるメリットが2つあります。一つは、経営の安定性を図れること。もう一つは多様な事業経験によって価値を実現していく基盤となる人材を開発できることです。
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経営を安定させる多彩な事業
2020年3月以降、外出自粛が続き、デジタルエンタテインメントの需要が世界的に増えるなか、ゲーム事業が伸びています。解像度やデータ処理速度、3次元の立体的なサウンド、新しいコントローラーの進化などによって、従来のゲーム体験は、よりリアルな触感を楽しめるようになっています。
音楽分野についても、アーティストのマネジメントやサポートを強化して、音楽、アニ メ、キャラクタービジネスなど、多様なIP(知的財産)を軸にして事業を展開しています。映画についても、幅広いジャンルの映像エンタテインメントを展開中です。
これらの事業を持つソニーとしては、ゲーム、音楽、映画と多領域にまたがるアニメでも強みを発揮できます。日本のアニメを世界中に届けることに貢献する事業にも意欲的に取り組んでいます。
人と人、人とモノを遠隔でつなぐリモートソリューションのニーズの高まりも、ソニー にとっては追い風となっています。もともと音・映像・通信のテクノロジーに強いため、撮影・編集・中継の技術を追求して、リモート体験の価値をさらに高めることができるからです。遠隔での音楽ライブなど、新しいエンタテインメントのかたちも提案できます。
もちろん、創業時から脈々と続くエレクトロニクス事業も進化を続けています。
デジタル一眼カメラα™ (Alpha™)はフルサイズイメージセンサーを他社に先駆けて掲載するなど、ソニーの技術を生かした新しい映像体験を提供しています。世界各地でトップシェアを獲得し、プロフェッショナルから一般のフォトグラファーまで、多くのユーザーから好評を博しています。
また、オリンパス社との合弁であるソニー・オリンパスメディカルソリューションズは、両社が保有する先端のエレクトロニクス技術と医療機器の製造・開発 の技術を融合し、「4K外科手術用内視鏡システム」を製品化したほか、「4K3Dビデオ技術搭載の手術用顕微鏡システム」を3社協業のもとで開発しました。ソニーとオリンパス社の先進技術のと融合で、世界の医療の発展を目指す動きも見られます。
ソニーはイメージング&センシング領域において、高画質な画像を撮影するイメージング用途ではすでに世界ナンバーワンを誇っていますが、さまざまな情報を取得して活用するセンシング用途でも世界ナンバーワンを目指しています。
例えば、スマートフォンにおけるセンシング需要への対応はもちろん、モビリティ領域における衝突回避や自動運転に必要となる車載センシングにも注力しています。 これはまさに、人を支える事業といえるのではないでしょうか。
とくに、世界初のAI処理機能を搭載したイメージセンサー「インテリジェントビジョンセンサー」は、次世代のキーデバイスとして幅広い分野での展開が期待されています。
あらゆる事業に関わるAIの活用についてもSony AI(株式会社ソニーAI)を設立して、世界トップレベルのAIリサーチャー・エンジニア集団をつくりました。
ゲームやイメージング&センシング領域やロボティクス領域だけではなく、異業種の新しい領域への展開も進んでいます。
例を挙げましよう。金融分野でいうと、AIを活用した新自動車保険商品の発売などが、それにあたります。運転特性連動型自動車保険「GOOD DRIVE(グッドドライブ)」です。
これは、ソニーとソニー損害保険、ソニーネットワークコミュニケーションズの3社が共同で開発し、2020年3月に販売を開始した商品です。特徴は、独自のAIアルゴリズムを使用して事故リスクの低いドライバーに保険料をキャッシュバックする仕組みになっていることです。
もっと具体的に言うと、AIアルゴリズムを搭載したスマートフォンアプリを通じて、ドライバーの運転特性データを取得し、過去の事故データとの相関から事故リスクを推定します。さらに、ドライバーにリスク低減方法を提示して、安全運転を促すこともできます。AI技術とソフトウェア技術と保険サービスに関するノウハウやデータといった多様な領域をもつソニーだからこそ実現できた好事例といえるでしよう。
意外なことに、ソニーは、次世代モビリティにも取り組んでいます。
ソニーの次世代モビリティ「VISION-S Prototype」は2020年1月、世界最大の電子機器の見本市であるCES2020で発表されました。モビリティにおける安心・安全、快適さ、エンタテインメントを追求する取り組みとなっています。
ソニーの車載向けCMOSイメージセンサーやToFセンサーなどのセンサーを33個配置し、高度な運転支援を実現しています。さらには車内でのエンタテインメントとして、各シートに内蔵されたスピーカーで没入感のある立体的な音場を実現する「360 Reality Audio」を搭載しています。
この他にも農業や医療、教育といった、ソニーにとって新しい事業領域での取り組みも始まっています。この多彩な事業群が、経営の安定性を生んでいるのです。
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革新を生む人材の開発
イノベーションを起こしたいと思いながらも、実現できない大企業は数多あります。なぜソニーは大企業になった今も、これほどまでに革新的な挑戦を続けられるのでしようか。その秘密は、どんなときも人を軸に据えるソニーの考え方にあるようです。
前述の「設立趣意書」には、会社は「個の持つ力が最大限に発揮される場」であるべきとの考え方が示されています。この考え方は、ソニーが約50年前に世に先駆けて始めた社内募集制度にも表れていました。本人の意思を尊重し、主体的なキャリアチェンジを支援しようという試みは、当時では珍しいものでした。
現在も、M&Aや合弁で新しい事業を取り込むときや、人材を惹き付けたり開発したりするときに軸となっているのは、「Purpose & Values(以下、P&V)」です。変化していくものがある一方で、変えてはいけないものがある。それが、ソニーにとってはP&Vです。P&Vは社員から意見を募りながら、CEOの吉田氏を中心に経営陣で練り上げられ、端的な言葉に昇華されたもので、ソニーにとって重要な軸となっているのです。
Values(価値観)に掲げられているもののなかに、「多様性」があります。ソニーの価値創造を支え、強みを形成しているのは、事業と人の多様性に他なりません。そのため、多様な価値観を持った個人を会社が大事にするのは、いわば当然なのかもしれません。
実際、ソニーは社員のエンゲージメントを最重視していて、経営指標にもなっています。例えば、経営人材の育成を事業横断でおこなっていたり、タレントマネジメント会議でタレントプールへの施策を議論していたりします。
2014年に始まった「Sony Startup Acceleration Program(旧・Seed Acceleration Program)」は、事業アイデアを持つ社内外の人に、ソニーが持っている起業のノウハウや環境を提供するプログラムです。このプログラムでは、あらゆる人に起業の機会を与えることを謳っています。
近年、テクノロジーを個人で活用できるようになった結果、クリエイティブなアイデアさえあれば誰でも起業できる時代になっています。このプログラムは、自分のアイデアを試したいと考えている社員のエンゲージメントを高める手段の一つとして、存在しているのではないでしょうか。人を中心に据えて大切にする会社の姿勢は、今も昔も変わっていないのです。
本記事の続きは、2021年1月発行の書籍『Shapers 新産業をつくる思考法』に収録されています。続編ではソニーで活躍する3人にインタビュー。新卒1年目に新規事業を立ち上げた對馬氏、自動車メーカーから転職して自動運転システム開発を手掛ける小路氏、そして新卒1年目から商品企画に奮闘する塩月氏です。
インタビューを通じて「彼らがいかにスタートアップのように働き、イノベーションを起こしているのか」をより具体的にイメージしていただけることでしょう。気になる方はぜひ書籍を読んでみてください。
※本記事は、2021年1月発行の書籍『Shapers 新産業をつくる思考法』の内容をもとに作成しています(書名から書籍のAmazonリンクに遷移します)。
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