COLUMN
ソーシャル・エンタープライズLIFULLに学ぶ、社会的事業を育むカルチャーの作り方
近年、企業が果たすべき社会的役割に関心が集まっていますが、こうした潮流は世界的に加速しており、今後企業を深く知る上では欠かせない視点になっていくでしょう。そこで今回は、ソーシャル・エンタープライズLIFULLが実践する事業づくりのアプローチを紐解きながら、同社がソーシャル・エンタープライズとしてどのように社会的事業を生み出し続けているのかについて探っていきます。
SPONSORED BY 株式会社LIFULL
話し手
羽田 幸広
株式会社LIFULL
執行役員CPO
林 征一郎
株式会社LIFULL
人事本部
伊藤 豊
スローガン株式会社
創業者
SECTION 1/6
社会的事業をテクノロジーでスケールさせるソーシャル・エンタープライズ
世界的にSDGs(持続可能な開発目標)や資本市場におけるESG投資の高まりによって、企業が果たすべき社会的役割への関心が高まってきています。多くの会社が、営利事業である自社の事業の中に社会的意義を見出そうとしていますが、こじつけに近いものや抽象度が高すぎるものが散見されるのも事実です。
一方で、社会的事業というとNPOをはじめとする社会起業家が取り組むものというイメージもあるでしょう。ただ、そうした社会起業の中には事業を大きく展開する力を持てずにいるものも多く存在します。
そんな中で、社会起業家的な事業をテクノロジーの力によってスケールさせるソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)への注目が高まっています。社会的に意義のあることを、小さくても良いから行うという従来の小規模な起業に比べて、社会的に良いことなら大きくするべきであり、そのために必要なテクノロジーや資本を活用しようというのがソーシャル・エンタープライズの特徴です。
ソーシャル・エンタープライズを標榜し、世界中のあらゆる「LIFE」を、安心と喜びで「FULL」にしたい。というコーポレートメッセージを掲げている企業がLIFULLです。日本を代表するソーシャル・エンタープライズとも言える同社は創業以来、社会課題を意識した事業づくりに力を注いできました。不動産領域に限らず、空き家などの遊休資産活用や地方創生、介護や金融領域におけるサービスまで、様々な領域で事業を展開していますが、その全ては社是である「利他主義」と実現したい世界観としての経営理念に基づいた社会性の高いものです。
実際に次々と事業を立ち上げ、2025年までに100人の経営人材を生み出すことで、100の社会課題の解決を目指すことをスローガンに掲げながら、着々と実績を積み上げています。
では、ただでさえ新規事業の成功確率は低いと言われる中、新規事業かつ社会的事業という難度の高い組み合わせを量産する仕組みを、LIFULLはどのようにして実現しているのでしょうか。
ここからはLIFULLの執行役員CPOの羽田氏と人事本部の林氏、スローガン代表である伊藤の3名による対談から、LIFULLの事業づくりに対する想いや手法を紐解き、新規事業を生み出し続けるカルチャーの作り方を探っていきましょう。
SECTION 2/6
100人の経営人材を創出することによる社会課題解決への想いと、実現へのアプローチ
林: LIFULLでは経営理念の実現を目指す上で、「100人の経営人材を生み出すことで100の社会課題を解決する」というスローガンを掲げています。「あらゆるLIFEを、FULLに。」するためには、既に当社が事業展開をしている住まいや介護の領域に限らず、世の中に数多く存在する社会課題を解決するスピードを上げていかなければなりません。そのためには『新規事業創出』と『経営者育成』の2つが重要だと考え、このスローガンを掲げています。
当社の場合、新規事業の創出には4つのアプローチがあります。1つ目は社員や内定者の提案から事業を生み出し、起案者が事業責任者や子会社社長を担うボトムアップのアプローチ。2つ目はLIFULLの考え方に共感した社外の人材からの新規事業のアイデアをもとに事業化を進めるオープンイノベーション。3つ目はLIFULLの経営理念に共感する企業にグループに加わってもらい、新たな領域に取り組む事業承継やM&A。そして4つ目はジョイントベンチャーのような、経営層の繋がりから生まれるトップダウンのアプローチです。
伊藤: M&Aやジョイントベンチャーを通して事業領域を拡げる動きは他社でもよくあると思いますが、ボトムアップの仕組みを定着させるのは各社苦労している印象です。社員からの提案を活性化させ実際に事業化していたり、社外からも新規事業を募ったりというのは貴社の特徴だと思いますが、どのような工夫をされているのでしょう。
林:新規事業提案制度「SWITCH」を通じて、3ヶ月に1度のペースで社員から新規事業のプランを募っています。今では年4回の開催の合計で130件ほどの応募があるのですが、それはエントリーの数と質を上げるためのさまざまな工夫と試行錯誤を重ねてきた結果です。例えば、エントリー自体が負担にならないように、最初は簡単なエントリーシートだけで応募できるようにする工夫をしています。
また「具体的なアイデアはないけど、こういう課題に取り組みたい」と思っている社員もいるので、同じ課題意識を持った社員同士でチームを組み、事業開発グループのメンバーや社内のアクセラレーター(子会社社長など)を交えて、新規事業立案に取り組むことができる機会も設けています。
SECTION 3/6
プランをプランで終わらせない。事業化に向けたマイルストーンと組織風土
伊藤: 実際にどのくらいのプランが事業化まで至るのでしょうか?
林:SWITCHでは事業プランを提案し入賞を目指すのですが、昨年度は130件ほどの応募から8件が入賞しました。その中から事業化に至るのは、だいたい半分くらいです。3ヶ月毎に2〜3件の事業プランが生まれると考えれば、良いペースだと思います。
入賞後はフィジビリティステージ、シードステージ、事業化ステージなど、ステージ毎に目安となる期間や予算を定め必要な支援が出来るような体制を整えています。
また、初期フェーズでは自分の業務時間の10%を新規事業に使って良いことになっていて、次のフェーズになると、所属する部署を離れて社長室に異動し、事業化に向けて専念できるようにしています。最終的には経営会議での承認を経て、事業化するという流れです。
フェーズごとの基準を明確にしているので、事業化フェーズ以降は、所属部署との調整で目先の業務を優先せざるを得なかったり、周囲の協力を得られず事業化に専念することができなかったりすることがないようにしています。
伊藤:社員から新規事業プランを募っている会社は少なくないと思いますが、大抵は仕組みがあっても事業化に至らないケースがほとんどですよね。
羽田:社内のマネージャー向け研修プログラムの場で、代表の井上が全マネージャーに向けて話をする機会があります。そこで「マネージャーが自部門の仕事で成果を上げるのは当たり前。部下の挑戦を応援しないのはフリーライダー同然だ」という話をずっとしてきているので、この考え方が文化として根付きました。挑戦を止めるようなマネージャーはいないですね。
あとはこの仕組みを10年近く継続する間に、当時若手だったメンバーがマネージャーになり、自分たちがしてもらったように若い人のチャレンジを応援しようという雰囲気が生まれてきました。ボトムアップで新しい価値を生み出していくという取り組みを積み重ねてきた結果、そうした考え方が徐々に浸透したのだと思います。
伊藤:まさに一朝一夕では築くことが難しい、10年がかりで構築された貴社ならではの文化だと思います。事業化に至った後は、事業立案した社員が事業責任を持つと伺いましたが、具体的には、どのような支援を受けながら事業経営していくのでしょうか。
羽田:新規事業は、ある程度仕上がるまでは社内でアクセラレーターが支援しながら取り組みます。そして、一定の規模に育ったら子会社化するという流れです。中期方針と年次計画、あとは月次での報告をしてもらっているので、それをモニタリングしています。また、その事業に合った役員を派遣して、役員・監査役がモニタリングする形になっていますが、あまり細かな指摘はしませんし、指示・命令みたいなことはしないようにしています。
例えば、人事制度を変えたいという話があったとしても、基本的には本人たちに任せています。経営者は経営者をしないと育たないというのが代表の井上の強い考えなので、1つの会社の経営者としてすべて自分で考えてもらうことが大事だと考えています。経営人材自身のポテンシャルを引き出したり、なんとしても会社を存続させて大きくしようと組織の生命力を高めたりするためには、完全に経営を任せないとなかなか難しいと思っています。
SECTION 4/6
ステークホルダー全ての幸福を追求する、全方位型の事業づくり
伊藤:ボトムアップ以外のアプローチからも、事業が様々な拡がりをみせていると思いますが、最近ではどのような事業に取り組まれているのでしょうか。
羽田:LivingAnywhere Commonsというサービスは、まさにコロナ禍でワーケーションへの関心が高まる中、全国の地方にある遊休不動産をリノベーションして、ワーケーションや様々な仕事をする人が交流する施設として活用しようという取り組みです。すでに会津磐梯や下田など全国7ヶ所で展開していますが、今後はもう少し都心の近郊にも施設を作る予定です。
今年の7月にLIFULLが中心となって、これからの新しい働き方や働く場所に関するプラットフォーム構想「LivingAnywhere WORK」を立ち上げ、現在約90団体がこの取り組みに賛同してくださっています。今後、企業同士でオフィスを間借りしあったり、ワーケーションに加えて企業間での人的交流なども含めた知的交配的なことをやったりしようという動きもあります。
ボトムアップで生まれた新規事業ではなくても、社内で適性のありそうな社員が事業責任者に就いています。
他にも中期経営方針に基づいて、経営陣主導で新規事業を推進することもありますね。その一つとして、ブロックチェーン技術を活用したグローバルな不動産投資プラットフォーム構築を進めています。この事業には経営幹部クラスの人材をアサインしました。
林:またこれまでLIFULL HOME'Sで培ってきたデータ活用の知見が、新規事業の成長に寄与する部分も大きいと思います。例えば、不動産の価格や画像データ、ユーザーが物件を検索する際のテキストデータなど、社内にはAI技術活用に必要なデータが数多く蓄積されています。ユーザーのニーズを的確に把握して、それにピッタリのものを提案したり、意思決定の支援をしたりするということは、私たちが培ってきた強みの一つなので、領域が変わっても十分応用できると思います。
昨年からOPEN SWITCHという、LIFULLと協業する事業プランを募集するビジネスプランコンテスト型のオープンイノベーションを定期的に開催しています。ここに応募してくださる方々のバックグラウンドが幅広いのも特徴です。日本にいる外国籍の留学生や、直近では高校生のプランが入賞を果たしました。LIFULLの経営理念に共感し興味を持ってくれた方が、新たな社会価値の創出にチャレンジしてくれています。今後は、そうした社外のユニークな視点から事業がどんどん生まれてくることも期待しています。学生の皆さんからの応募ももっと増やしたいと考えています。
SECTION 5/6
「あらゆるLIFEを、FULLに。」社会にとって良いものであればやればいい
羽田:経営理念は「やらないことを決める」のが一般的かもしれませんが、LIFULLは簡単にいうと「あらゆるLIFEを、FULLに。」というのがビジョンになりますので、「社会にとって良いものであればどんどん挑戦してみよう」という考え方です。なので経営理念に沿っていれば、比較的自由度は高いです。よって、儲かれば何でも良いというわけではなく、むしろ「儲かるからやりたい」なんて言うと、それじゃダメだと却下されます。
林:例えば、ボトムアップで事業化したものの一つに、LIFULL FLOWERという花の定期便サービスがあります。これは実家が花農家を営んでいる社員が、大量に捨てられてしまう花やそれに困っている業界関係者を多く目にしてきたことから生まれたサービスです。
また「スポーツ関連の事業をやりたい」と言って入社してきた社員が、一度転職をしてスポーツビジネスに飛び込んだ後、LIFULLに戻って立ち上げたSufuという事業があります。様々なスポーツにおける実績のある指導者による練習メニューやトレーニング方法を動画で提供することで、選手、指導者、保護者の悩みを解消するサービスです。
LIFULLとは直接的な関係が薄いビジネスに思えるかもしれませんが、「あらゆるLIFEを、FULLに。」するために地域社会という観点から考えれば、地域に根ざしたスポーツのコミュニティを作り上げることを通して、ユーザーにとって安心と喜びを提供できるだろうと考えています。ですから、スポーツ関連のビジネスも私たちの事業領域になり得ます。
他にも最近立ち上げたばかりのunii(ユニー)というサービスは、新たな事業の創出に挑戦する企業とユーザーをつなぐオンラインインタビューサービスです。ある社員が新規事業を検討する中で自身が感じたことや、NPOなどの社会起業家たちと接する中で感じた課題が起点になっています。事業化の過程でユーザーニーズを適切に吸い上げられないことが原因で、いい想いから始まっているのにも関わらず、結果として真のニーズと乖離(かいり)してしまうケースがあることに課題を感じてこのサービスを立ち上げました。
インタビューに回答してくれたユーザーへの謝礼をNPO団体への寄付に還元できる仕組みを構築することで、社会課題を解決したい、社会的な事業を起こしていきたいという想いをもった人を応援するプラットフォームとなることを目指しています。ソーシャル・エンタープライズを標榜するLIFULLにとって必要な事業だと考えています。
このように利他主義を一番大事な社是に掲げている会社だからこそ、いずれの事業もユーザーやクライアント、地域や社会、そしてLIFULLも含めた業界全体・社会全体が良くなるという確信を持てるかどうかを大切にしています。そして最後に大事な判断基準になるのが、「LIFULLっぽい」かどうかという基準なのでしょう。
羽田:また最近はこうしたボトムアップの事例に限らず、事業承継案件が来たときに社長になりたい人は手を挙げられるようにもしています。半年に1回、全社員が提出するキャリアデザインシートの中で、若手から部長クラスまで色んな人が希望を出しているので、具体的な事業アイデアを持っていないけど事業経営に携わりたいという人材を経営人材候補のタレントプールとして把握しています。今後は、ゼロイチの新規事業からのルート以外にも、経営人材として挑戦できるフィールドと経営人材候補とのマッチングも進めていければと考えています。
伊藤:確かに経営人材といっても、本人の中にアイデアがあって事業を創りたいという人もいれば、アイデアはないけど経営にはチャレンジしてみたい、もしくはそういう能力やポテンシャルがある人もいますよね。SWITCHという新規事業創造の機会以外でも、経営人材を社内で可視化して、いかに引き上げていくかというところにも取り組まれているのは素晴らしいですね。
SECTION 6/6
社会を良くする行動と熱量は「自分課題」から育まれる
羽田:そもそも私たちが創業時から取り組んできた不動産ポータル事業は、マンション購入をしようとしてもローン審査が通らなかったあるご夫婦のために、当時不動産デベロッパーに勤務していた代表の井上がたくさんの物件情報を提供したことがきっかけでスタートしました。
当時はインターネットが普及しておらず、不動産情報はモデルルームや紙媒体で集める必要がありました。ですから井上は沢山のモデルルームに足を運んで情報をあつめ、そのご夫婦に提供したのです。このときに感じた情報の非対称性を解消したいと考えたのが「LIFULL HOME'S」事業を立ち上げた理由です。
そういう意味で、私たちは網羅的に社会課題を抽出し、成長期待だけで事業参入の可能性を探るというアプローチはあまり取りません。むしろ自分課題が大事なのだと思います。自分事として等身大の課題意識を持てるものを追求していく中で、結局はそれが徐々に社会と接続し、社会的に意義のある話に拡大していくわけです。そうしたうねりの起点となる自分課題を持っている人を応援していくのがLIFULLっぽさなのだと思います。
貧困問題のような世界的に大きな難しい課題を解決したいという人もいると思いますが、なんとかしたいと行動する熱量は、自分の等身大の課題意識からこそ生まれるものだと思います。これが問題だと思える自分事に熱中して考えていたら、気づいたら、社会課題の解決へと接続していく。LIFULLとしてはそうした一人ひとりの自分の中にある熱量と社会をつなぐサポートを続けることで、事業を生み出し続けていければと考えています。
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