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【SaaS業界解説】事例から学ぶ、基礎知識とトレンド

皆さんは「SaaSとは何か」と聞かれて、自分の言葉で説明することはできますか?はたまた「なぜ今こんなにも伸びているのか」「SaaSの仕事って何をするのか」と聞かれたら、いかがでしょう?耳慣れたキーワードでも、実は本質を理解できていないことは多いもの。しかしSaaSはとても奥が深く、知れば知るほど面白いビジネスモデルです。当記事では、日本で注目されているSaaS企業の事例を交え、SaaSについて一から詳しく解説します。

SPONSORED BY Hamee株式会社

話し手

比護 則良

比護 則良

Hamee株式会社
取締役 プラットフォーム事業部長

大津 裕史

大津 裕史

Sansan株式会社
執行役員 Chief Product Officer

SECTION 1/7

顧客とwin-winの関係が築ける画期的なビジネスモデル

SaaS(Software as a Service)とは、クラウド経由でソフトウェアを提供するビジネスモデルのことです。SaaSの登場により、利用者は必要なソフトウェアを一つひとつ自身のPCにインストールすることなく、インターネットを通じて必要な機能を必要な分だけ利用することが可能になりました。初期費用の安さや気に入らなければ解約できるリスクの低さなどを理由に、従来型のソフトウェアからSaaSへの移行は年々進んでいます。2016年時点では国内のソフトウェア市場においてSaaSが占める割合は3割程でしたが、2023年度には5割程度に達し、その後もSaaSの利用は増加していくと予測※1されています。

私たちの生活でも、例えば自宅で映画を観る際、かつては店舗でDVDをレンタルしていましたが、最近ではNetflixやAmazonのようなサブスクリプション型のサービスを利用する機会が増えました。同様にビジネスの世界でも、SaaSの台頭によりこれまでの商流に大きな変化が起きているのです。

SaaSの大きな特徴は、「顧客の成功の最大化が自社の利益になる」という点にあります。なぜならSaaSは、顧客がサービスを"使い続けてくれること"で、企業が収益をあげられるビジネスモデルだからです。少しでも顧客に不利益が生じれば、解約に繋がりかねないため、顧客との信頼関係をひたむきに構築し、サービスを使い続けてもらうことが大切です。つまり、顧客の継続利用とそれによる成功こそが、売上の最大化に直結する極めて重要な指標になります。

次章以降では、近年存在感を強めるSaaS企業の実例を元に、彼らがどのように顧客の成功を後押ししているのかを見ていきましょう。

※1 出典:富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2019年版」

SECTION 2/7

ゼロから新市場を創造した日本発SaaSの雄、Sansan

Sansanが展開するのは、社内の名刺を一括管理することでビジネスのはじまりを後押しするクラウド名刺管理サービスです。「名刺管理」というこれまで存在しなかった市場を創造し、8割超という圧倒的な市場シェアと、官公庁や大手企業を含む6000件以上の導入実績を誇ります。

そんな同社の特筆すべきポイントは、平均解約率が0.6%と極めて低い水準であること。これは取りも直さず、顧客の満足度が非常に高いということです。その理由の一つに、日本のSaaS企業としていち早く、顧客の成功を支援する専門部隊「CS(カスタマーサクセス)」を設置したことが挙げられます。CSは、自社のサービスを通して顧客を成功に導くことで、契約期間の更新や契約金額の増加を促し、収益を最大化することをミッションとした役職です。受動的に顧客の要望を満たすカスタマーサポートとは異なり、能動的なアプローチを行うことが特徴です。SaaS企業がCS部門を設けることはスタンダードになりつつありますが、Sansanは他社に先立ち、顧客満足の追求に投資をしてきました。

また、CSのみならず、開発・マーケティング・営業などすべての部門が顧客への価値提供を強く意識しており、一貫して顧客ニーズに真摯に寄り添う姿勢に同社が選ばれる所以があります。実際に2020年6月には、オンライン商談で名刺交換ができる「オンライン名刺交換」の機能※2をリリースし、コロナ禍における企業のリモートワークシフトにいち早く対応しました。

ここからはSaaSを提供する上での仕事のやり甲斐や、コロナ禍の逆風をどのようにして追い風に変えたのかなどについて、同社CPO(Chief Product Officer)の大津裕史氏に話を伺いました。

※2 オンライン名刺交換機能とは:紙の名刺のデータをスキャンすることにより、Sansan上で発行されるデジタルの名刺を持つことができる機能。発行されたデジタル名刺のURLを相手に伝えると、名刺データを受け渡すことができる。受け取る側は、Sansanを利用していなくても、名刺の受け取りや自分の名刺の返送が可能。

SECTION 3/7

SaaSの醍醐味は、変化を最速で捉えた価値提供にあり

大津 裕史
Sansan株式会社
執行役員 Chief Product Officer

京都大学卒業後、株式会社ビービットにて、デジタル領域を中心に企業のコンサルティングを手掛ける。2010年に株式会社WACULを創業し、代表取締役に就任。ウェブサイトの分析から改善提案まで行う人工知能を開発・提供する。2018年にSansan株式会社へ入社し、CPOとしてプロダクト戦略を指揮する。

大津 裕史氏

― コロナ禍で迅速に新機能をリリースできた理由を教えてください。

大津:実はオンライン名刺の企画自体は昨年から準備していました。当初は東京オリンピックを目途にサービスをリリースしようと考えていたのですが、コロナの影響もあり、最速で取り組むことになったんです。社内で「コロナをチャンスに転換しよう」という機運が高まり、サービス開発に関わるメンバー全員の温度感が揃ったことも、迅速なリリースに繋がった要因だと思います。

― オンライン商談の需要を早くからキャッチして、準備されていたんですね。他にも新たな取り組みを進められているのでしょうか?

大津:オンライン名刺に留まらず、ビジネスでのオンラインの出会いをいかに広範囲且つ正確にデータ化するかというテーマに力を注いでいます。そうした「出会いのデータ化」を進めることで、イノベーションが起きやすい環境を作ることができますし、それは世界でも必要とされるチャレンジだと思っています。

例えばある企業でコロナの感染者が出た際に、Sansanを導入していたおかげで、その企業の誰といつどこで接触したかという履歴を簡単に把握できたという話がありました。しかし海外では特定のプロダクトが役立ったという話は聞こえてきません。GAFAのようなテック・ジャイアンツでさえ、「企業活動における人と人との接点情報をデジタルで持つ」という部分はあまり重視していない印象なので、そこには大きな伸びしろがあると考えています。

― 現在のチャレンジやSaaSの面白さを教えて下さい。

大津:激しく変化する世の中に対して素早く的確にプロダクトをフィットさせていくという営みは、難しいですがとてもやり甲斐があります。これまで日本と欧米との間には常にトレンドのギャップがありましたが、コロナによる環境変化は全世界同時スタートです。この変化を最速で捉えればグローバルで抜きん出ることができるというのは、今までになかった機会です。もちろんライバルも多く難しい挑戦ですが、そこに面白さを感じています。

SaaSという観点だと、大きな影響力を持てることですね。一社一社へのコンサルティングでは、自分の労力に対して与えることのできる影響範囲は限られますが、SaaSは一つ改善をすればそれが数千社、数万人の役に立ちます。同じ労力と思いを込めて取り組むのであれば、個人的には後者のほうがより意義を感じられると思います。

― 常に時代の先を見据えながら、顧客が何を必要としているのかを貪欲に思考し続け、スピーディーに価値を提供する。そんな姿勢こそが多くの顧客に支持される優れたSaaSを作る上で欠かせない要素であり、数千人、数万人と非常に大きな範囲に影響を与える点も、SaaSに携わる大きなやり甲斐だと言えそうです。

SECTION 4/7

米国トレンドから考える、国内SaaSの今後

では、ここからはSaaSのトレンドについて見ていきましょう。

そもそもSaaSには、大きく分けて二つのタイプがあります。多くの企業に共通して存在する"業務"に着目した「ホリゾンタル(水平型)SaaS」と、ある特定の"業界"のみに特化した「バーティカル(垂直型)SaaS」です。

SaaS先進国である米国では、2010年前後からホリゾンタルSaaSが盛り上がりをみせ、その後バーティカルSaaSが隆盛を極めていますが、日本でも近年、バーティカルSaaSのプロダクトが目立つようになりました。バーティカルSaaSは業界に特化しているため、一見すると対象顧客が少なく、影響範囲も限定的な印象があります。しかし特定の業界で高いシェアを獲得することで、プラットフォーマーとして大きな影響力を持つポテンシャルを秘めています。

そんなバーティカルSaaSの中でも、国内で存在感を強めているのがEC業界に特化したSaaSを提供するHameeです。同社はEC事業者である強みを活かし、複数チャネルからの注文の一元管理や在庫管理など、EC事業者のバックヤード業務を効率化するSaaS「ネクストエンジン」を開発しました。顧客目線のサービスづくりを武器に、ECバックヤードを支えるSaaSとして国内シェアNO.1※3を獲得し、EC業界のプラットフォーマーになりつつあります。

国内のEC市場はこの20年間で、20兆円規模へと成長しました。今後デジタルネイティブ世代が購買力を持ち、2025年には約28兆円規模にまで及ぶという予測※4もあるなかで、様々なEC事業者の成長を支えるプラットフォーマーとして、ネクストエンジンのさらなる成長が期待されます。

ここからは、バーティカルSaaSの魅力や業界に与えることのできるインパクトについて学びを深めるべく、同社でネクストエンジンの責任者を務める比護則良氏にお話を伺いました。

※3 Hamee株式会社調べ
※4 出典:野村総合研究所「ITナビゲーター2020年版」

SECTION 5/7

あらゆるプレイヤーと連携し、業界の基盤を創るHamee

比護 則良
Hamee株式会社
取締役 プラットフォーム事業部長

スタートアップのエンジニアとしてキャリアをスタートし、ECシステムの0→1の立ち上げを経験。その後、GMOグループの子会社となった同社で引き続き新規サービスの立ち上げを複数経験するも、3年で倒産。2014年、Hamee株式会社入社。倒産の憂き目に遭った経験から「企業と仲間を守る」という強い思いを持ち、ECマーケティング部門の立ち上げを経て、現在は取締役兼プラットフォーム事業部長として、SaaS型ECプラットフォーム「ネクストエンジン」の事業戦略を指揮する。

比護 則良氏

― 貴社のEC業界での立ち位置を教えて下さい。

比護:私たちは「ネクストエンジン」を提供するSaaS企業として、4000社を超えるEC事業者のバックヤードを支えてきました。同時に、世界で累計1942万個(2020年7月時点)を売り上げているスマートフォンアクセサリーブランド「iFace(アイフェイス)」をデザイン・販売するEC事業者でもあります。システム会社ではなくEC事業者がSaaSを開発しているという点は、プロダクトレベルを引き上げる要因であり、大きな競合優位性です。この二つの顔を併せ持つ企業は、ほとんどないと思いますね。

業界のプラットフォーマーとして多種多様なプレイヤーと共存共栄できていることも強みの一つです。実際に約25%を占める市場シェアの高さ※5から、多くの企業とパートナーシップを組んで連携を深めています。EC市場の伸びに伴い、今後も次々に新たなプレイヤーが現れることが予測されますが、そうした企業とも競合せず、共に進化し成長していくことができるのも私たちの特徴ですね。

また、在庫管理や顧客管理、決済や会計システム、倉庫との連携まで多くのプレイヤーと関わりがあるため、ECを深く学ぶには最適な環境だと思います。競合となる事業者間では情報を出し合うことはないので、通常は自社プロダクトの範囲内でしか知見を得ることができません。一方で私たちは連携する企業の各プロダクトの仕様や動向など、すべての情報に触れることができるのです。

※5 Hamee株式会社調べ

― 高いシェアを獲得すると収益性が安定し、次のチャレンジがしやすいのがSaaS企業の特徴だと思いますが、貴社もそういったフェーズに入っているのでしょうか?

比護:そうですね。Hameeも新たなフェーズを迎えています。収益性が安定してくる時期だからこそ、じっくりやり切るという実行力以上に、明確な意志のもと、とにかく変化に耐えうるスピード優先な実行力が必要だと考えています。これから挑戦したいことはとにかく沢山あるので、「自らガンガン動いて事を成すぞ」という気概のある方やEC業界に興味のある方にとっては、とても美味しい環境だと思いますね。

具体的には、ネクストエンジンを利用する4000社超の事業者から集まるデータをもとに、新規事業をどんどん作っていきたいと考えています。2020年3月には「多くのEC事業者が滞留在庫の処理に困っている」というデータから、滞留在庫を格安で売買できるBtoCサービス「RUKAMO」をリリースしました。他にもデータを活用した新規事業は、既にいくつも立ち上がっています。今後は強みとするECバックヤードの支援に限らず、企業の売上向上につながるような新規事業・新機能をより広範囲で生み出していきたいです。そうして、ECの川上から川下まで事業者を一気通貫で支援できるサービスを構築できればと考えています。

行動を起こすことへの制約がなく、意志と推進力さえあればいくらでも会社を動かすことができるのがHameeらしさだと思います。現在の私のポジションも、入社初日からの営業活動や、社長への直接の提案、自発的なサービス立ち上げなど、とにかく行動をして自らの手で掴んだものです。スピード感を持ってパワフルに物事を推進できる仲間を迎えて、今後も更に進化していきたいと考えています。

SECTION 6/7

業界への貢献をダイレクトに実感できる仕事

― 現在のお仕事やSaaSの魅力を教えて下さい。

比護:魅力の一つは、変化が激しくチャンスの豊富なEC業界で挑戦できていることですね。国内のEC市場は、ネットショッピングを利用する世帯が1割にも満たなかった2000年前後から二十数年間絶えず進化を続け、今ではカオスマップが作られるほどプレイヤーの入れ替わりが激しいです。コロナが追い風となった数少ない市場でもあり、消費者行動モデルの変化で今後も更に拡大していくでしょう。

余談ですが、海釣りをすると、潮の流れが鈍い時は小魚さえ釣れないんです。一方で、潮の流れがあると小魚の動きも活発になり、それを餌とする大物をも狙うことができる。それはビジネスでも同じで、ECというマーケットはまさに大物を狙える、勝負する価値のある領域だと思います。

SaaSという観点では、私たちが培ってきたノウハウを凝縮して効率的に他の事業者に広げていけることですね。日本のECの繁栄に少なからず貢献できているという実感があり、それが大きなやり甲斐に繋がっています。

BtoC-EC の市場規模の経年推移
令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査) 報告書」(経済産業省)、「平成28年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)報告書」(経済産業省)、「Hamee株式会社2021年4月第1四半期決算説明資料」を加工して作成

― バーティカルSaaSはプラットフォームとして企業を支えるだけでなく、業界全体の変革を促すほど大きなパワーを持ちうる存在だということがわかります。また、膨大なデータを元に、次々に業界内で新たなサービスを生み出していける点も大きな魅力と言えそうです。

SECTION 7/7

「SaaS」というビジネスモデルを企業探しのヒントに

冒頭でも触れた通り、企業によるSaaSの利用は年々拡大しており、市場規模は直近5年間で165%もの成長が予測されています※6。そうした成長可能性の大きいマーケットで高いシェアを獲得している企業であれば、事業の拡大に応じて責任者のポストも増え、若くして大きな裁量を持つことも可能でしょう。

また、ここまで見てきたように、SaaSでは「日々集まる大量の顧客データを踏まえて思考し、マーケット概況を正確に捉えたうえで仮説を立て、それを次々とサービスやプロダクトに跳ね返す」という営みが重要になります。その中で身につく、データやマーケットの状況から顧客ニーズにあったサービスを素早く提供する力は、スキルや知識がすぐに陳腐化してしまうような現代でも、領域に捉われない汎用性の高い能力です。こうした点から、成長環境を求める人にとって、SaaS企業は魅力的な選択肢だと言えるでしょう。

そして、企業選びで何よりも大切なのは、業界や企業の規模、企業理念といったメジャーな切り口を無思考に使用するのではなく、自分の目的に合った切り口を持つことです。「顧客貢献を大切にして働きたい」「仕事を通して世の中に大きな影響を及ぼしたい」という目的を持つ方にとっては、SaaSというビジネスモデルは企業選びの大きなヒントになるでしょう。理念に顧客貢献を掲げているか否かや、会社の規模感だけではなく、実際に顧客とwin-winの関係性を築くことのできるビジネスモデルなのか、ビジネスモデルが労働集約的でないかを確認することで、より目的に合致した会社を選ぶことができるはずです。

もし企業の選び方に迷いがあるようであれば、ビジネスモデルという切り口から企業を見てみると、新たな発見があるかもしれません。あなたの企業選びの軸がSaaSの持つ特性と合致するならば、SaaSという切り口を企業選びのヒントにしてみてはいかがでしょうか。

※6 出典:富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2018年版」

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