COLUMN
ロジカルシンキングのフレームワークを超える思考法
論理的で説得力に優れ、面接官も思わず唸る突き抜けた意見を述べられるようになりたい──そんな人が磨くべきは、「ロジカルシンキング」のスキルです。今回は、ロジカルシンキングの基本的なフレームワークである「MECE」に加え、突き抜けた意見を持つために必要な要素、ビジネスでも役に立つ思考法のコツまでお伝えします。
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突き抜けた意見は今から鍛えられる
インターン一次選考のグループディスカッション。自分達なりに論理的で的を得た結論を導けたが、他チームの発表を聞くと一段上の発想をしていて感心させられた──皆さんにもそんな経験があるのではないでしょうか。
このような経験をした学生と話していると、「自分には素質がないからロジカルシンキングができない」という諦めの声をよく聞きます。しかし、ロジカルシンキングとは「物事を客観的に捉えて情報を適切に分類し、ピラミッド型などに構造化するための思考法」、つまり能力ではなく手法であり、習得し鍛えることができる「スキル」なのです。まずはスキルを身につける第一歩として、ロジカルシンキングのフレームワークにおいて基礎となる「MECE」についてお伝えします。
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ロジカルシンキングのフレームワーク「MECE」
ロジカルシンキングに必須なのが「構造化」という過程です。構造化とは、複雑な問題を考えやすい問題に分解していくことです。人間の記憶も、情報を構造化し、関係づけて保存されています。心理学でいう「エピソード記憶」や、語呂合わせでの暗記などが、ストーリーや音感と意味を関連づけた記憶の例です。
私たちは基本的に、構造化された情報の方が認識しやすい傾向にあります。したがって、問題を構造化し、分解したうえで意見を述べると、相手にもわかりやすく、通じやすく伝えることができるのです。
構造化するために用いるのが「MECE (Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)」という手法です。MECEとは、ある事柄や概念を重なりなく、しかもモレのない部分の集まりで捉えること。物事を考える際に全体感を把握し、思考に無駄な重なりやモレがないことをチェックするということです。
ここで一つ、例題をみてみましょう。
例題:
大手ショッピングセンターの年間売上を5年以内に2倍にする施策を提案せよ
この課題をMECEに構造化すると以下のようになります。売上を利用者数×単価に、利用者を年代別に分解した上で、客足の悪い平日に20代~50代の利用数と単価を増やす施策を考えるという方針です。このような分け方は、どの要素もモレなく被りなく分解されている例と言えるでしょう。
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フレームワークを超える。突き抜けた問題解決に必要な「良い切り口」とは
一見この構造化は正しいように見え、実際多くの学生が選びがちな切り口ですが、実はあまり筋が良い切り口とは言えません。大手ショッピングセンターの年間売上は、都市部であれば100億円は下らないでしょう。それを5年以内に200億円にしようと考えた場合、小さなセグメントの利用客を増やすだけの施策は現実的ではありません。
このように多くの学生は、課題をMECEに構造化することはできても、その構造化の切り口自体がそもそも「目的に合った最も効果的な切り口」ではないことがほとんどなのです。
それでは、先の例題において突き抜けた意見に繋げるためにはどうすれば良いのでしょうか。先ほど述べたように特定層の利用客数を増やすのではなく、より売上インパクトが大きく影響範囲の広い切り口を見つける必要があります。
そのためには新たな顧客の獲得や既存顧客への新たな価値の提供が鍵となり、その手段として「新規市場への進出」が挙げられます。この切り口でみると、ショッピングモールと親和性の高い市場に進出し、既存利用客をこれらの市場に取り込むという方向性が見えてきます。その中でも例えば医療・介護市場やエンタメ市場は非常に規模が大きく、特定層の利用客数を増やすよりもインパクトの大きな施策に繋がりそうです。
このように「どの市場を取りにいくか」を考える時の有効な手段が、自社の強み、顧客ニーズ、競合の状況から戦略・施策を考える3C分析というフレームワークです。仮にショッピングモールの利用客に20代が多くeスポーツのニーズがあり、なおかつeスポーツ施設が一部地域に集中していることを考慮すれば、eスポーツ市場への進出は選択肢となりうるでしょう。今回の例題では、「どの年代の利用客を増やすか」ではなく、「どの市場に新たに進出するか」という切り口の方が筋の良い考え方と言えます。
このように、表層的な事象をとりあえず分解するのではなく、それぞれの要素の抽象度を一つあげ、より良い切り口で構造化することで、目的に合った最も効果的な解、つまり突き抜けた意見に繋げることができます。
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ロジカルシンキングの真価が発揮されるのはビジネスの現場
ロジカルシンキングのフレームワークを用いて、論理的かつ本質的な意見を述べる、というスキルを身につけると、グループディスカッションや面接の場で役立つだけではありません。「良い切り口を見つける力」は、会社に入社した後の日々の業務だけでなく、企業戦略といった会社の方向性を大きく変える意思決定にも役立ちます。
ドン・キホーテのユニークな差別化戦略をみてみましょう。従来のスーパーは利用客が目的の商品をすぐに見つけやすいよう、広い店内にわかりやすく商品を陳列するのがセオリーでした。しかしドン・キホーテは利用客の切り口の抽象度を一つ上げ、単に求めている商品別に分けるのではなく、「目的を持っている利用客」「目的を持っていない利用客」に分解。
この切り口に基づいて、それまでのスーパーの常識を覆し、店内のいたるところに商品を並べ、意図的に複雑で煩雑な店内配置にしました。この戦略は、買う予定がなかったものもついつい買ってしまう、という消費者心理を巧みに突き、同社を30期連続の増収増益へと導いています。
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良い切り口を見つける方法とは
良い切り口を見つける力を磨くために今みなさんができる最も効果的な方法は、自分より本質的な視点を理解している、例えばビジネスの現場で活躍している人と交流することです。
教育関連の学生団体に所属していた、一人の学生の例を紹介しましょう。当初は、主催イベントの企画会議をしても、「FacebookとTwitter、どちらのチャネルを使うべきか?」など目的を考えない手段の話に終始し、まさに切り口を取り違えている状態でした。当然ながら集客も思うように伸びず苦戦します。
そんな状況が続いたある年、ビジネスパーソンも参加する団体に入ったことが彼を成長させるきっかけとなります。そこでは皆、限られた時間の中で目的を達成するため、あらゆる切り口で物事を捉えていました。「そもそも市場の状況はなにか」「他社はなにをしているのか」といった前述の3Cの視点から物事を捉え、「FacebookかTwitterか」という、今目の前にある事象から離れ、抽象的・客観的に分析・施策立案を行っていたのです。
自分達との圧倒的な差を感じた彼は、そんな先輩達の物事の見方をとにかく真似し、幾度のフィードバックを通して本質的な物の見方を身につけていきました。その結果劇的な成長を遂げ、イベントの企画段階で学生のニーズを把握するためのアンケート調査を自ら提案し、それに見合ったイベントを企画するという、より抽象的で本質的な観点からのイベント設計・集客が出来るようになりました。その他にも、普段の会議のアジェンダ整理やビジネスパーソンとのコミュニケーションにおいても大幅に効率が上がったと言います。
ロジカルシンキングにおいてMECEに考えるのはもはや当たり前。突き抜けた意見に繋げるには課題に対する良い切り口を見つけることが重要です。実際に私が多くの学生のGDを見てきた中で、MECEに物事を構造化できる人は大勢いましたが、無数の切り口の中から目的に合わせて適切な切り口を選べる学生は数%しかいません。課題を構造化し整理するだけではなく、「良い切り口」の引き出しを増やし、周りとは一線を引く突き抜けた意見を持つための武器にしてみてはいかがでしょうか。
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