COLUMN
「働くを遊ぶ」―個人が主役の時代における、仕事の意義と企業の見方
「あなたは何のために働きますか?」こう聞かれて即答出来る学生の方は少ないかもしれません。内定を得ることを目的に、働く意義を考えずに就活を進めている人もいるでしょう。しかし、どのような仕事が自身の幸せにつながるのかを考えることは、今後の長い人生を充実させるためにも重要です。今回は、JTにて執行役員を務める妹川氏に、VUCA時代の仕事のあり方や、これからの企業と個人の関係性について伺いました。この記事が皆さんの仕事や働くことそのものを考えるきっかけになれば幸いです。
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話し手
妹川 久人
日本たばこ産業株式会社(JT)
執行役員(サスティナビリティマネジメント担当)
SECTION 1/6
VUCA時代の企業のあり方とは?
──まず今後の企業のあり方や、働く個人と企業の関係性について、妹川さんが考えられていることを教えてください。
妹川:皆さんも、現代の状況を表す「VUCAの時代」という言葉を聞いたことがあるでしょう。VUCAとは、Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性の頭文字を取ったもので、目まぐるしく変転し、予測困難な状態を指します。
高度経済成長の時代まで、企業の成功の定義は財務的な成功を収めて勝ち上がることでした。財務的な成功は、過去にどれだけ社会に貢献したかを示す尺度です。しかし変化が不確実でかつ早く突然に訪れる現代においては、より未来志向で企業と社会とが、共生・共創し、サステナビリティを具備していることが必要とされるようになってきています。
その潮流に伴い、企業が一方的に「何か」を提供しても価値として認められることは稀で、お客様や社会とコ・クリエーション(=共創)された「何か」こそが価値あるものとされるようになってきていることも、認識すべきでしょう。
加えて、企業の成長の仕方にも変化が起きています。不確実な時代にあっては前提条件がすぐに変わってしまうため、計画を立ててもその通りには進みません。そのため、これまでは現在の延長線上で成長させる計画を立て、線形的で継続的な成長をなぞっていた企業も、既存の事業や仕組みに依存せずにチャレンジを繰り返し、非連続的かつ非線形的であっても「持続的」である成長戦略を構築することが重要だと考えられます。
線形的な成長が可能だった時代には、今あるものを改善し、効率化するというオペレーショナル・エクセレンス※1が競争力に繋がっていました。しかし非連続的な成長が求められる時代に肝要なのは、解の明確なアジェンダを効率良く進めることだけではありません。個々が当事者意識を持って他者と協働し、旧来とは異なる観点から新たな課題を設定して試行錯誤を繰り返すことで価値を共創するという働き方・姿勢が重要です。このようなあり方こそ、「イノベーティブ」と言うべきものなのかもしれません。
効率の向上と新たな価値の創造はどちらも重要なものですが、この認識の変化に合わせて個と組織の関係は変容しており、オペレーションの洗練のために組織が個を規律する時代から、イノベーションのために会社が個に合わせる時代になっていると言えます。
会社が個に合わせる時代は、すなわち「皆さんが主人公」の時代であるということです。このような時代にあっては、自らがどうしたいかという意志やスタンス、軸を持ち続けなければ、世の中から求められる市場価値の高い人財になることも、自分が納得できる仕事をすることも難しいでしょう。
※1 オペレーショナル・エクセレンス:業務改善プロセスが現場に定着し、業務オペレーションが洗練され、競争上の優位性にまでなっている状態。企業の競争力の源泉の重要要素として位置づけられることもある。
SECTION 2/6
仕事を楽しみ、遊ぶように働く
──意志やスタンスを持って仕事に取り組むことは大切だと思うのですが、同時に難しいことでもありますよね。就活でも「何をやりたいのか」とよく聞かれますが、いまいちわからないという人も多いです。意志を持つにはどうすれば良いのでしょうか。
妹川:仕事に対して意志を持つためには、楽しんで取り組むことが何よりも重要です。辛いことや嫌なことに対して、自分の意志を持てるほど考え抜き、やり切ることは難しいでしょう。
そもそも、学生の皆さんは仕事をどのようなものだと捉えていますか? 楽しいことでしょうか。それとも苦痛なことでしょうか。
村山昇氏の著書『働き方の哲学』※2によると、歴史を振り返ると、古代から中世にかけての仕事は「苦役」「罰」のように、否定的な意味合いを持ったものだったそうです。中世になると生活維持のための生業、近世に近くなると修道や天職といった、肯定的な位置づけをする考え方が出てきます。近代以降では仕事への認識がより細分化されていきますが、社会貢献としての仕事や自己実現としての仕事がある一方、ワーキングプアといった問題も発生しています。
では、現代以降を生きる皆さんにとって、仕事はどのようなものであるべきなのでしょうか。私は「趣味としての仕事」であるべきだと考えています。これは趣味を仕事にするという意味ではなく、趣味のように仕事をするという意味です。人間の寿命が長くなり、働く期間が長くなることを考えると、仕事を趣味に昇華して楽しみ、遊ぶように働くことが非常に重要だと思います。
※2:村山昇『働き方の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン, 2018)を参考
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「働くを遊べる」人とは
──仕事を趣味のように楽しみ、「働くを遊ぶ」ためにはどうすればいいのでしょうか?「仕事=大変で辛いもの」という認識が、今の日本には強いように感じています。
妹川:「働くを遊ぶ」を実現するために大切なことの一つは、「選んだ仕事をどう捉えるか」という個々人のケイパビリティを高めることだと考えています。もちろん「どんな仕事をするか」も仕事の楽しさに影響を与えますが、選んだその仕事を自分なりに解釈し、「面白い」と捉える能力が非常に重要だと思うのです。
皆さんは、趣味や課外活動に時間を忘れて没頭することや、人とは違う表現ややり方に面白さを感じることはありませんか? 私は趣味の中でも何かを創ることやカスタマイズすることが好きなようで、「オリジナル」を持つことにこだわりを持ち、面白さを感じています。そして仕事においても、進め方や期待以上の成果に「オリジナル」を付与することでモチベーションが上がります。
皆さんも、これまでの遊びや趣味での経験も踏まえて、「物事の中に楽しさを見出し、面白がる」というケイパビリティの伸び代を見極め、育んでほしいですね。それを公私分けずに活かしていくことが、「働くを遊ぶ」ことに繋がると思います。
とはいえ、「どんな仕事をするか」も大切です。一時期インターネット上で話題になりましたが、その瞬間携わっている仕事への感情や想いは、「得意なこと」、「好きなこと」、「稼ぐこと」、「他者の役に立てていると認識できること」という要素をどれだけ満たしているかによって、生きがいと感じたり、天職と感じたり、使命感を感じたり、あるいは成長機会と感じたりと、その捉え方は様々に変わるそうです。
したがって、皆さんが選ぼうとしている仕事やこれから携わる仕事に対する感情は、この4要素がどの程度満たされるかによって変わってくるでしょう。
一方で、長く働いていればすべてを満たす仕事を多々経験し、どのような仕事が楽しいのかわかってくるものの、学生の皆さんにとって、「どのような仕事がこれらの要素をどの程度満たすのか」推測することはなかなか難しいと思います。
そこで、皆さんが「働くを遊ぶ」を実現するためにもう一つの大切なことは、この4つの要素はすべて可変であるという前提を認識することです。私自身、経験する前や初めて携わったときには何とも思っていなかった仕事が、後でやってみると生きがいだと思うほど面白く感じられることもありました。
私は社会人になって20年以上が経ちましたが、得意なことも好きなものも、20年前とはガラリと変わっています。稼ぎたいかどうかで言うと、若い頃のほうがお金を欲していたかもしれません。他者の役に立っているかという観点は、昔よりますます重要なものだと感じられるようになりました。人によっては不変・難変な要素もあるかと思いますが、自分にとって重要な要素が何なのかを考えることで、企業選びの観点も見えてくるのではないでしょうか。
SECTION 4/6
仕事を楽しむための、会社の見方
──仕事を楽しめるようになるために、会社選びという観点でのアドバイスをお願いします。
妹川:仕事を楽しむための4つの要素のうち、特に「他者の役に立っていると認識できるか否か」に関しては、所属する企業が生み出している価値への共感度やその企業の環境が大きく影響してくるでしょう。
冒頭でもお話しましたが、企業は価値を一方的に提示するのではなく、お客様や社会とコ・クリエーションし、その価値が社会に受け入れられることで存在意義を得ています。企業の存在意義を計るのは難しいですが、〇〇といえばA社、△△といえばB社、とその会社のサービスや商品を想起できるか否かを考えてみると、皆さんも簡単かつクリティカルに「その企業がどの程度社会に受け入れられているか」を判断することが出来るでしょう。
ちなみに、「業界」というセグメントで切って企業を見分けることは、業界を分類した誰かのバイアスの上から見ることになるので、あまりおすすめしません。それよりは、社会と共創しているバリューや、根底にあるその会社が大切にしている理念に共感できるかどうかを、自分の心でよく見てほしいですね。
また企業の環境に関しては、何よりも「人」を見るべきだと考えています。「人」と言っても固有名詞で「〇〇さんがいるから働きたい」と考えるのではなく、選考や面談で会えたような人が集まっているその企業の社風や空気がマッチするかどうかを確かめることが大切です。
JTは、特に選考で人や社風のマッチングを重視しているからこそ、各々が自由に挑戦でき、変化をいとわない環境が整っているのだと自負しています。
SECTION 5/6
心の豊かさを守りゆく、JTが生み出す価値
──JTには変化をいとわない環境があるとのことですが、「元専売公社」「昔からある大企業」という印象から、あまり挑戦する企業というイメージがない学生も多いと思います。JTが生み出す価値と、働く環境について、もう少し詳しく教えてください。
妹川:JTってまあまあしぶとい会社ですよ(笑)。昔からアントレプレナーシップがあり、医薬品事業や加工食品事業の展開、M&Aにも取り組んできました。実は撤退してしまった事業も多々あります。だからこそ新たな展開を繰り返すDNAが受け継がれていますし、こだわりやコミットメントを持って取り組んだ上では「失敗しても仕方なし」という、チャレンジしやすい雰囲気が会社全体にあります。何十年も前から「たばこ領域は斜陽産業」と言われている中で、会社全体が健全な危機感を持ちつづけて未来への取り組みを行っているのです。
未来への取り組みの柱は、今後も情緒的な「心の豊かさ」やヒューマニティに向き合っていきたいというJTグループの想いにあります。あくまでも私見ですが、21世紀以降、世界はテクノロジーによってさまざまな合理化や効率化を進め、明示的な社会課題を解決してゆくでしょう。真善美という言葉がありますが、誰もが共通に願う「善」の追求は益々期待され、実現されてゆくと考えています。
しかしながらともすると、自己実現や人間の存在意義など、個々が思う「美」の領域は蔑ろになってしまうのではないかと危惧しています。「善」と「美」に優劣はなく、当然私たちも人類共通の課題の解決などの「善」にもコミットしていきます。ただ、それに加えて、例えば「自分らしさ」という「美」を発見できず困窮している人たちがいるとすれば、その方々を見過ごしたくはありませんし、見過ごされてしまう社会にはなって欲しくはないと考えているのです。
そしてJTグループは、自分らしさの発見、あるいは自分らしさを体現・再確認するひとときなど、場や瞬間の演出を担える企業だと考えています。実際に、「『心の豊かさ』は、これからの未来では何によって醸成されるのだろう」という命題を多くの社員が考え続けています。その未来を想起し、私たち「らしさ」を体現しようとする人のことは誰も止めませんし、現在のJTグループのビジネスといかに結びつけるかを模索する人も多くいます。
私は、JTグループがこだわりたい「心の豊かさ」は、効率化や合理化が求められる世にあって一層、価値あるものになりうると思っています。人間らしさや自分らしさ、その因子となるであろう「心の豊かさ」や「かけがえのないひととき」が棄損されないよう、私たちは今後も挑戦を続けていきます。
SECTION 6/6
自分の色を大切に、未来をつくる
──働くことを前向きに捉えチャレンジしたいと考えている学生の方が、将来にわたって「働くを遊ぶ」ために、重視すべきことを教えてください。
妹川:今後世の中はますます速く、大きく変わっていくことでしょう。めまぐるしい変化に対応する力を付けるには、PDCAを回すことと好奇心を持つことが重要です。
PDCAは、どんな人でも変化に対応できるようになれる手段です。大企業では組織が大きすぎてPDCAを回せないと思っている人も多いようですが、そんなことはありません。状況や課題に適切に疑義を持ち続けることで、どんな環境でも物事を改善し、変化に対応し続けることができるはずです。
また、好奇心も重要です。私自身、いまだに人に探されていない、見つけられていないような物事やアイデアにわくわくしてしまう性分なのですが、自分の「好き」や「知りたい」という想いから、新しいものを生み出すエネルギーが生まれることも多々あると実感しています。
そして、今後の社会で自分の価値を高めていくためにも、何より自分の色を大切にしてください。今後テクノロジーやAIが発達し、ともすればより無駄や余白のない合理的な世の中になっていく中で、人が人らしくあることが難しくなっていくと考えています。人間の意義が何にあるのかという問題が生まれる中でも、自分の色や個性を持ち続けることが、その人の価値になるのではないかと思います。
最後に、日本の人口減少や、社会や企業の様々な課題がはびこっていますが、今は人生が100年もある時代です。価値を世の中と共創することを意識して、あまり悲観せずに将来を選んでほしいと思います。そして将来を選ぶときは、自分で意思決定をしてください。誰かに選んでもらうのはもったいないですし、何か失敗したときに他責にしたり後悔したりする原因にもなります。
皆さんがより人間らしく、自分らしく意思決定できる未来を、今後もぜひ一緒に創っていきたいですね。
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