INTERVIEW
海外赴任経験者が語る、グローバル企業で身につくリーダーシップとは
いつかは海外勤務をしてみたい。もしくは、国内にいながらもグローバルで通用する人財になりたい。そう考えてグローバルに事業を展開している企業を志望している就活生の方もいるでしょう。今回は世界130以上の国と地域で製品を販売している日本たばこ産業株式会社(JT)に新卒入社し、5年目から2年間スイス赴任を経験した堀尾幸加(ほりお・みか)さんに、「海外勤務のリアル」と「日本にいながらもグローバルに働くには」をテーマにお話を聞きました。
【謝礼あり】読後アンケートご協力のお願い(計6問・所要時間1〜2分)
SPONSORED BY 日本たばこ産業株式会社
話し手
堀尾 幸加
日本たばこ産業株式会社(JT)
たばこ事業部 Country People & Culture 次長
SECTION 1/5
Big4かJTか。歩みたい人生から導き出した、自分なりの答え
⸺まずは堀尾さんの学生時代と就活について教えてください。
堀尾:学生時代は法学サークルの活動に打ち込んでいました。仲裁・交渉の大学対抗コンペにも出場し、3年生のときは、英語チームで日本トップになりダブリンで開催された世界大会にも出場しました。
それほど打ち込んでいたので「就活は早く終わらせて、残りの大学生活はサークルに全振りしよう」と、3年生の春にコンサルのインターンに参加し、10月頃にBig4の1社に内定、そのまま就活は終えてサークルの代表になりました。
しかし、サークル活動が一区切りした4年生のとき、「大して深く考えずに就活を終えてしまったけれど、それで良かったのかな?」と、ふと立ち止まって。もう一度就活を始めてJTから内定を得て、コンサルかJTか悩んだ末に、JTに入社を決めました。
⸺その2択で、JTに決めたのはなぜですか?
堀尾:ひとことで言うと、周りの期待に応え続ける人生はもうやめようと思ったからです。
実は私は高校まで日本と海外を行き来する生活で、海外ではアジア人だからと差別され、日本では帰国子女だから周りと違うという目で見られ、どこに行っても出る杭は打たれる状態でした。
いつしか、ありのままの自分で勝負することに恐怖を感じるようになっていて、そして気づいたのです。「ロジックで身を固めれば誰にも否定されない」と。そこから法学部で三段論法の世界に入り込んで論理的思考力に磨きがかかり、おかげで就活中にお会いした人事の方の殆どからコンサルへの就職を勧められるような人間になっていました。
一方、就活の自己分析の中で、これまでの私は、周りからの期待や勝手につけられるラベルみたいなものに応えることに必死だったと気づきました。私にとっては、コンサルも多分その一部だったんですよね。とりあえず高学歴と言われる大学、とりあえず外資系コンサルに行っていれば、文句ないでしょと。
でも、それって誰からの文句なんだろう、自分が本当に歩みたい生き方とは何だろうと考えた時に、出会ったのがJTでした。
たばこは、理と情で言うと「情」のプロダクトだと思います。健康上のリスクはあるし、お金はかかるし、吸っている時間も無駄。合理的に考えたら、吸う理由は一つもないものを「心の豊かさ」という言葉で肯定している、この会社って何だろうという純粋な興味から始まりました。
しかし就活を進めるうちに、私が生きていく上で大切にしようとしているのは、まさにそういった自分の「情」の部分なのではないかと思うようになりました。逆に、否定されることを恐れてロジックの鎧を身に纏ってきた私がこのままコンサルに行ったら、ありのままの自分で勝負することから逃げ続ける「ロジカルモンスター」になっていくような気もしたんです。
そんな中で、ロジックで塗り固められた意思決定や他者評価の自分像、べき論ではなく、自分の想いや感性に耳を傾けて向き合うには、JTみたいな会社は良い場所なのではないかと思ったのです。
SECTION 2/5
国内外の現場と中枢を行き来し、コアビジネスの全体像を体感
⸺就活がご自身のあり方を変えるきっかけになったのですね。入社後は、どのようにキャリアを築いてこられたのでしょうか?
堀尾:新卒1年目は支店で営業を担当しました。当時はデバイスで吸う加熱式たばこが世に出たばかりで、JTでは紙巻たばこと同様に「BtoBtoC」営業をしていました。JTがコンビニなどのたばこ販売店様に商品を提案し、販売店様からたばこを吸われるお客様に販売するという手法です。
配属から3カ月ほど経った頃に偶然、競合他社の販売会のビラを手に入れ、足を運んでみたところ「私がやってきた営業と全然違う!」と衝撃を受けました。競合では販売店様を経由せず、お客様に直接、加熱式たばこのデバイスの紹介や販売をしていたのです。
加熱式たばこは家電製品に近く、着火するだけの紙巻たばことは異なる商品だからこそ、BtoCコミュニケーションや1to1マーケティングなど、これまでとは別の営業スタイルが必要だろうと感じ、先輩や支店長とともにBtoC営業のプロジェクトを立ち上げました。
それが複数の支店を統括する支社からも評価され、支社プロジェクトとして他の支店メンバーを含む10人規模に大きくなり、最終的には年に一度の支社の全体会議でプロジェクト発表も行いました。他の発表者は幹部クラスの方ばかりの中、新卒1年目が30分間の枠をもらい、社員約500人の前でプレゼンをしたのです。
⸺新卒1年目が幹部に混ざってプレゼンですか!?
堀尾:本当に年次に関わらずチャンスをくれる会社だなと思いました。当の私は緊張しすぎて高熱を出し、発表直前まで控え室で倒れていたんですけれど(笑)。今ではいい想い出ですし、何よりこの1年を通じて、私たちの商品を買ってくれるお客様とたくさん出会って、直接お話をして、「お客様を中心に考える」ということの本質を教えていただいたので、私のキャリアの基礎はやはり営業の時のあの1年にあるな、と今でも思います。
新卒2年目から2年半は、副社長兼たばこ事業本部長の秘書を担いました。秘書と言っても、一般的にイメージされる秘書業務とは異なり、海外事業に関するレポーティングやスピーチ・プレゼンの代筆、出張同行、役員会議への出席など、ビジネスの中枢を知ることができる仕事に携わらせてもらいました。
そしてRRP ※1 の商品企画を行うチームで、出向準備として7カ月間プロダクトデザインに関わった後、スイスのジュネーブに本社を置くJT International(以下、JTI)※2 に出向しました。
⸺海外勤務は希望していたのですか?
堀尾:希望していました。実は、私のキャリアは私なりに筋が通っているんです。営業でビジネスの現場を体感した後に、事業本部長秘書としてグローバルを含むたばこ事業全体に対するトップマネジメントの視座に触れる。そして商品企画で国内RRP市場という社運を左右するようなビジネスアジェンダに関わり、さらにJTIでグローバルなたばこの実務サイドを経験することで、たばこというJTのコアビジネスの全体像を体感できたと考えています。
※1 RRP:Reduced-Risk Products(リスク低減製品)の略。従来の紙巻たばことは異なり、喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品。良く知られているRRPは、電子たばこと加熱式たばこを含む。
※2 JT International(JTI):JTの子会社。JTが国内たばこ事業を、JTIが海外たばこ事業を担っていたが、2022年の組織再編に伴い、国内たばこ事業が海外たばこ事業に統合され、JTIの傘下に置かれることとなった。
SECTION 3/5
入社5年目でスイス赴任。意見対立を乗り越え、最良の価値を届ける
⸺いよいよ海外でのご経験について伺っていきます。JTIではどのようなお仕事をされていたのですか?
堀尾:加熱式たばこ「Ploom X」のデバイスデザイン開発チームで、発売に向けたデザイン開発を担当しました。具体的には、製品の色や素材、質感などを、デザイナーやブランドチーム、R&D(研究開発)と協力しながらプロダクトオーナーの一員として定義していく仕事です。
⸺赴任中に印象的だったことを教えてください。
堀尾:JTIには様々な国の人が集まっていて、多様性や個性が重んじられる環境だったため、会議などで意見をまとめるのはとても大変でした。会議の流れを無視して、皆が自分の意見を言いたいときに言うので、JTIにいた2年間でファシリテーション能力は結構鍛えられたかもしれません。
意見対立をビジネスケースの証明で乗り越えたこともありました。
Ploom X ADVANCEDのパッケージデザイン開発は、1年半ほどかかる長期プロジェクトでした。私はプロダクトオーナーとして、ドイツや香港のR&D、中国のサプライヤーやデザインエージェンシーなど、世界各地の関係者と協業し、半年かけてデザインを練り上げました。
既にプロジェクトが佳境に入る中、社内で発言力を持つ開発プロジェクトとは直接関係ない他部署の部長から別のデザインを提示され、要求をのむことになりかけました。しかし「発言力」という曖昧な理由で、これまでの皆の努力を無駄にするわけにはいかないし、プロダクトオーナーとしての説明責任を果たせないと感じ、客観的にどちらのデザインが良いか証明するために急遽日本とロシアで顧客調査を実施したのです。
調査を始めて見えてきたのは「お客様にとってはどちらのデザインもいまひとつ」という結果。私は調査の裏で、両案のデメリットを解消するデザインを過去の試作品の中から掘り起こしました。そして結果が出るとすかさず「私の意見もあなたの意見も間違っていた。調査結果から見ると、真にお客様の声に応えているのはこの新しいデザインだと思う」と用意していたものを提示し、意見対立に決着をつけることができたのです。
この出来事から、お互いの意見を自由に主張できる・すべき環境だからこそ、何が主観で何が客観なのかを明確にすること、そして「お客様にとっての最良の価値」という共通目標や共通言語を持って議論することの重要性を痛感しました。
SECTION 4/5
プロフェッショナルとして相手を尊重するカルチャー
⸺海外では、若手の働き方も日本とは違うのでしょうか?
堀尾:日本企業の多くは「メンバーシップ型雇用」を採用していて、人財を総合職として一括採用し、一人ひとりの職務は明確化しないことが一般的です。対してJTIは「ロール型雇用」という、社員の役割を明確にして、役割に応じた評価や報酬を決定するシステムを採用しています。そのため、JTIでは一般的な日系企業と比べて、若手であっても大きな裁量権と責任が発生します。
例えば、日本では大切な会議には先輩たちが一緒に出席していて、自分が少しくらい聞き逃しても先輩が拾ってくれることが多いと思います。一方、JTIでは「堀尾さん、今から中国のサプライヤーと打ち合わせしてきて」と一人送り出されます。私が聞き逃せば、JTI側は誰もそれを知らずに仕事が進む。もしもそのせいで失敗すれば、私の責任として容赦なく評価が下がるという、シビアな「個」の世界でした。
⸺若手でもプロフェッショナルとして扱われるからこそ、大きな裁量権を持つことができ、同時に責任も背負わなければならないのですね。
堀尾:その通りです。このように相手を一人のプロとして尊重するため、コミュニケーション方法が違うことにも驚きました。
日本のビジネスシーンでは、人前でも部下の成果物に疑問を呈したり、指摘したりするイメージが多少ありますよね。しかし海外、特にヨーロッパでは「相手はプロだから、恥をかかせてはいけない」という意識が強いため、それをしません。本当にネガティブフィードバックをしなければならない場合は、二人きりのシーンで行い、慎重に言葉を選びます。
逆に言えば、そのリスペクトに応えるプロフェッショナリズムを常に発揮していることが求められますし、そうでない人財は淘汰され、最終的には解雇されます。誰かが叱ってくれたり、おせっかいで教えてくれたりということもないので、自分で自分を律する必要がある点も、なかなかシビアだなと思いました。
関連して、外国人は会議で、日本人の多くが「無駄」だと感じるような発言をたくさんすることも衝撃的でした。
日本ではプレゼン終了後、質問がなければ誰も発言をせずに会議を終えることがしばしばだと思います。しかし外国人は、何の指摘も改善案も含まれない、ただの賛同や感謝、応援コメントをすることがとても多いのです。それには、チームの団結力を高める、自分たちの仕事の価値を相互に再確認するなど、大切な意味があります。
斜に構えていた私は、当初は無駄な発言が多いなと思うばかりでしたが、出向の2年間が終わる頃にはその重要性を理解し、一緒に働く仲間をエンパワーするコミュニケーションを行えることが、グローバルリーダーの必須要件でさえあることにも気づきました。日本でチームリーダーをしている今でも、こうした姿勢を大切にしています。
SECTION 5/5
日本にいながらグローバルリーダーシップを身につけるには
⸺海外と日本ではビジネスカルチャーに異なる点があるとわかりました。しかし日本で働く上では関係ないことではと思ってしまいます。
堀尾:外国人と関わる機会がなく、海外と取引もしない日本企業に勤める人にとっては、確かに重要性が低いことかもしれません。しかしJTのようなグローバル企業では、もうそれでは通用しないと思います。例えば外国人が自分の部下や上司になった際に、その人とコミュニケーションをとる上で前提とされるグローバルリーダーシップやチームワークを身につけていることが必要となるのです。
既に英語ができなければ仕事にならないという部署も増えてきています。私が今所属している部署では、1年前にはなかったJTI本社とのメールのやり取りやオンライン会議が、今では当たり前に行われています。
現在、JTとJTIは組織編制上も、両組織の垣根を取り払う「One Team」化を推進しているため、今後ますます日本と海外それぞれの良さを持ちより、補完し合うような組織になっていくのではないかと思います。
⸺JTでは今後より一層、日本にいながらもグローバルな働き方をしなければならなくなりそうですね。
堀尾:そう思います。私が考えるグローバルリーダーシップとは、多様な個性を力に変えて成果を出すことです。もちろん、JTIに出向すれば、そうした状況に対峙できる機会が増えると思いますが、グローバル化が進んでおり、かつ多様な人財が集まっているJTでは、海外勤務をせずとも日本でそうした経験がしやすいと思います。
「グローバルリーダーシップ」と言うと強い言葉に聞こえますが、そんなに構える必要もなくて。本質的な部分は結局、日本だろうが海外だろうが、周りの一人ひとりを個として知ろうとする姿勢を持って、自分の価値観に当てはめずに相手の言葉に耳を傾ける。相手との違いと誠実に向き合いつつ、自分の信念や考えもきちんと対話していく。そういったことで、おのずと身についていくものだと思います。
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