GoodfindCollege

INTERVIEW

歴史を知れば社風が分かる。カルチャー理解のケーススタディ

就職活動において自分にマッチした社風の会社を選ぶことは重要と言われています。しかしそれが分かっていても、捉えどころのない「カルチャー」なるものをどのように理解すればいいのか難しく感じている方もいるでしょう。今回は、創業から独自の社風を築き上げてきた日本たばこ産業株式会社(以下、JT)を例にとり、企業の歴史からカルチャーを理解する方法を伝授します。

SPONSORED BY 日本たばこ産業株式会社

話し手

石川 恒

石川 恒

日本たばこ産業株式会社(JT)
R&D統括部長

SECTION 1/5

企業カルチャーは「性格」と考えてみる

突然ですが皆さんは就職活動において、企業のカルチャー理解をどのように行っていますか?ホームページを見て経営理念や行動指針を確認する、社員と実際に会って1対1で話をする、口コミサイトを見る等色んな方法がありますが「結局よく分からない」とか「カルチャーって抽象度が高く捉えどころがないな」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

企業のカルチャーを理解するには「企業を人と捉えたときのその人の性格である」という視点を持ってみると分かりやすいかもしれません。人が根本に持っている気質や性格・価値観が個々人によって異なり容易に変化しないように、たとえ同じような事業をしていても、企業毎に性格や価値観が全く異なるということが多くあります。

そして人の性格や価値観が、その人の生い立ち、過去の経験、育った環境といった要因によって形成されていくのと同じように、企業の人格もその背景から探ってみるとより深く理解できるかもしれません。

今回はそれを事例と共に学ぶべく、JTの歴史とカルチャーの関係性について紐解いていきます。JTといえば、皆さんが一度は名前を聞いたことがあるような日本を代表する大企業ですが、実はGoodfindが知っている会社の中で、最もイメージと実態に乖離のあるとてもユニークな会社でもあります。

かつて専売公社であったという成り立ちから堅いイメージがある一方で、近年では「変人採用」の本の出版で話題にもなりました。実際に選考を受けたことがある方はユニークさを肌で感じているかもしれませんが、その背景までは知らないという人が多いのではないでしょうか。JTのカルチャーとは一体どのようなもので、何故そのようなカルチャーが醸成されたのか、JTの石川氏にインタビューをしました。

石川 恒 氏

日本たばこ産業株式会社 R&D統括部長

1995年 たばこの製品設計担当としてキャリアをスタート。その後、製品開発の企画を担当し、新商品開発のプロジェクトのコーディネーターなど務める。
2004年 ドイツでグローバル市場向け製品の製品設計及び官能評価に関するマネジメント、スイスにてグローバル市場に向けた製品開発・技術開発の企画立案及びグローバルプロジェクトのマネジメントに携わる。
2012年 日本に戻りR&Dの企画部署で日本のR&Dの戦略企画や管理、人事などを担当。
2014年 マーケティング部門に移り日本市場のブランドポートフォリオ戦略企画などに携わる。その後事業企画室長を経て、現在R&D統括部長を務める。

──石川さんは入社以来、国内外、技術系、ビジネス系とJTの中でも様々な分野を渡り歩いてこられたと伺いました。そんな石川さんからみた「JTのカルチャー」とはずばり、どんなものでしょうか?

個人的には、3つのキーワードがあると思います。1つは「多様性」。個性豊かな尖った人財が飾ることなくその人らしい姿でいて、こうした多様なメンバーが力を合わせて仕事をしています。

2つ目は「挑戦」。専売公社からの民営化、事業の多角化、グローバル化、そして近年ではリスク低減製品(注1)という新しいたばこのかたちへのチャレンジなど、挑戦を無くしては語れない会社だからこそ、社員の挑戦を後押ししてくれる風土があります。

3つ目は「後輩思い」です。私たちの根っこには、「企業は人であり、そしていずれ未来は若い世代に託していく」という考えがあります。そのため人財育成にはとても熱心であり、常に後輩思いなところがあると思っています。

石川 恒 氏

注1 リスク低減製品:従来の紙巻たばことは異なり喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品のこと 【出展】JT SCIENCE 用語集

SECTION 2/5

JTの歴史は「挑戦の連続」

──「多様性、挑戦、後輩思い」ですか。全て深掘りしていきたいのですが、まずは挑戦が気になりました。JTは政府出資会社で、どちらかというと堅い会社のイメージがあったので、このワードが出てきたのは意外です。

確かにJTはもともと専売公社であったことから、堅いイメージをお持ちの方も多くいらっしゃるかもしれません。しかし実際にはこれまでの道のりは決して平坦ではなく、その歴史はまさに「挑戦の連続」であると思っています。

JTは、1985年に専売公社から民営化して誕生しました。もしかすると「元は国営で国に守られていたので安定した環境だったのでは」と考える方もいるかもしれませんが、この時から「未来を見据えて新しい挑戦をしていかなければならない」という意識が社内にありました。

当時、国内におけるたばこの総需要が10年後の98年頃にはピークアウトするとの予測が立っており、さらに1987年にたばこの輸入関税がゼロとなったことで、海外の巨大な大手たばこ会社との激しい競争も始まりました。まさに、JTという会社は厳しい逆風の中で船出をしたのです。

こうした中で、新たな挑戦なくしては生き残れないという危機意識をもって、事業の多角化やたばこ事業のグローバル展開というチャレンジに挑んでいきました。その結果、加工食品や医薬等の事業を立ち上げていくとともに、たばこ事業については数々のM&A等を通して世界に事業を拡大し、現在第3位のグローバルたばこ企業として約130か国の国と地域でたばこ製品を販売するに至っています。

そして今、世界での規制や健康志向の高まりによって、たばこ産業自体が大きな転換期を迎えています。その中で過去の成功体験に捉われることなく、リスク低減製品という新しいたばこのかたちにチャレンジしています。こうした挑戦の歴史がJTのカルチャーの根底にあり、若手の挑戦を後押しする社風にも繋がっているのだと思います。

──若手の挑戦を後押しする風土というのは、多くの会社でよく聞きます。具体的なエピソードはありますか?

私自身の話になりますが、まだ30代前半の頃ドイツのグローバル製品開発センターに研修生として入っていました。研修を終えたときの最終プレゼンで、自分が感じていた課題を当時の幹部に思い切って話したんです。

「もっとこういうところを強化しなければいけないのではないか、その為にこういった体制や仕組みが必要ではないか」と青臭く熱弁したのですが、その時の幹部のリアクションは「よく分かった、じゃあやってくれ」でした。

その後ドイツへの転勤が決まり、まさに自分が課題と思っていたことをリードするディレクターとしての挑戦が始まりました。実は部下を持つのもその時が初めてで、今から考えるとマネジメント経験もない若手によくこうしたチャレンジをさせてくれたと思いますね。

──確かに普通の会社ではそんな大胆な抜擢事例はあまり聞かないですよね。一般的には大きな会社ほど変革を嫌うように思いますが、なぜJTはそれができるのでしょうか。

社員1人ひとりに危機意識と未来志向のDNAが流れているからだと思っています。私なりにこれまでのJTの歴史を振り返ってみると、いつの時代も「このままではいけない」という危機意識を持ち、「現状を自分たちで変えていかなければいけない、そして未来につなげていかなければならない」ということを考えて変革を続けているんです。

SECTION 3/5

変革の中枢にあったのは多様な人財の存在

──グローバル展開での工夫についても教えてください。日本企業の海外M&Aでは、既存の価値規範を現地に押し付けて統合後のガバナンスに失敗してしまう話をよく聞きますが、JTは次々と買収を成功させていますよね。

私たちの海外展開の特徴の一つは、日本人だけでグローバル化をしようとしなかったことです。 海外を目指した当初、明らかに必要な人財やノウハウが不足していました。そのため海外でM&Aを行い、買収先でグローバルに活躍してきた人財を積極的に活かしていきました。

日本からのメンバーも一部加わりましたが、そこでは決して日本のやり方を押し付けることはせず、多様な力を結集して海外展開することを徹底しました。現在JTグループでは110以上の国籍のメンバーが在籍していますが、ここまでのグローバル化は、こうした彼ら彼女らの力あったからこそ実現できたのです。

──多様な人財を積極的に登用すると、その分チームとしてまとまるのが難しくなったり、既存の事業で活躍していた方の反発も起こりそうですが、どのようにして乗り越えられたのでしょう?

お互いの強みをリスペクトしながら仕事をする文化があります。実際に多様な力を活かしていこうとすると、全科目100点のような人はいなくても、ある科目はずば抜けて200点みたいな人がいて、「じゃあこれは彼に任せよう」「この領域は彼女しかいないよね」といった形で仕事が任されていくんです。

また、多様性を活かすために議論はフラットに行います。例えば、私が入る会議でも「R&D統括部長がいるから言いにくいな」という雰囲気はなく、みんな言いたいことをどんどん発言してくれますね。

他にも、海外での会議は英語が公用語なのですが、自分の発言は誰かが話し終えてから、というルールのようなものがあり、英語がネイティブであろうとなかろうと、1人ひとりの意見をちゃんと大切にするようにしています。

──JTがグローバル展開に成功したのは多様性を重視してこそだったのですね。

そうですね。そしてそれが今のJTのカルチャーにも直結していると思います。実際、我々の行動指針であるJTグループWAYの中では「多様な力を結集する」ということを掲げていますし、海外事業を展開する中で、多様な人財がコラボレーションしていくのが当たり前の文化が根付いており、バックグラウンドの違いを活かしやすい土壌がありますね。

別の事例でいうと、現在R&D部門ではリスク低減製品の開発に取り組んでいますが、こうしたプロダクト開発に携わる技術者の多様性も豊かになってきています。以前は農学・化学・生物学のバックグラウンドを持つメンバーが大部分でしたが、今では電気や機械、システム系などのメンバーも増えています。

新しく電子デバイスを使った商品をつくるとなると、やはりこれまで紙巻たばこを中心に研究や開発をしていた人財だけでは対応しきれないのです。そこで、電気系の会社で活躍されてきた専門の方々にも仲間になってもらってきています。このように「自分はこれが強みだけど、あなたの強みはこれだよね、お互いの強みを活かして一緒につくりあげていこう」という考え方がベースにあるんです。

SECTION 4/5

未来を担う若い世代を放っておけない、後輩思い

──カルチャーの3つ目に「後輩思い」がありましたが、こちらについてはいかがでしょう?

JTの変革を可能にしてきたもう1つの要因が、「後輩思い」な人財育成に取り組んできたことだと考えています。「企業は人なり」の意識は非常に強く、未来をつくっていくのは1人ひとりの多様な人財、ということで長期的な視点での研修や学びの機会が数多くあります。

それも業務に必要な知識を覚えるための研修だけでなく、1人ひとりのキャリアアップの目標に合わせた学びの機会や、研修を自分の意志で選んで受けられる制度もあります。私自身もこれまで、ビジネススキルやテクニカルスキルから、「これからの時代のリーダーがどうあるべきか」といった答えがすぐに見つからないようなテーマまで、社内外含めて幅広く学んだり考えたりする機会がありました。

──実際にJTはNLP(注2)というリーダー育成の制度が有名で、後輩思いという優しい言葉の裏で実はとてもハードにリーダーシップ育成を仕組みに落とし込んで取り組んでいますよね。

仕組みの面だけではなく風土面においても、先輩と後輩の対話が活発になされています。役員に対しても普通に話しかけやすいフラットな雰囲気がありますね。そこで若手社員が、ウェットに青臭く語る「想い」を先輩が受け止めて、次世代に託していこうと若手に新しいチャンスを提供する。

先ほどの私の例においても、先輩から「お前がそう信じるなら、やってみたらいいんじゃないか?」という風に後押ししてもらいました。そして先輩が退職するとき、最後私に「あとは頼むな」と言ってもらい、その時には何か襷のようなものを受け取ったと感じました。

だから今は私自身が、先輩から受けたものを同じように若手メンバーに受け継いでいきたいという想いが強いですね。時代に合わせた成長支援をしていかなければと考え、まさにリーダーシップ育成の進化にも取り組んでいます。

──「想い」や「青臭い」という言葉がよく出てきました。世の中にはもっと現実的でドライな会社も沢山あるかと思うのですが、JTでは「想いをもって仕事をする」ということが当たり前と受け取られる風土なのでしょうか?

その通りですね。例えば論理的な提案の中にも、そこに必ず自分なりの想いがあります。個性豊かなメンバーが集まっている会社ですが、それぞれが「自分なりの想いを持っている」という点だけは全員に共通しているかもしれません。

──ここまでで、JTが創業以来数々の変革を遂げてきたという歴史的背景が、多様性・挑戦・後輩思いといったカルチャーを醸成したのだということが分かりました。ありがとうございました。

注2 NLP:JT-Next Leaders Programの略。不確実性が高くなる事業環境において、国内外問わずJTグループのビジネスをリードする若いトップマネジメントの輩出を目的に、2013年から同社で始動した。【参考】JT RECRUITING SITE

SECTION 5/5

歴史を知ってカルチャーの解像度を上げよう

このように一企業の固有の価値観・行動規範はその企業の歴史と深い因果関係があるのです。一見、カルチャーというのは抽象度が高く「どの企業も同じようなことを言っている」ように見えるかもしれません。しかし、その背景を辿ると企業毎に違うストーリーが存在することに気付くはずです。そうすれば企業の社風が自分に合っているのかどうかにも考えが深まります。

最終的にどこの会社に行くのかという判断は自分の直観に従ってもいいかもしれませんが、深く理解しないまま感覚だけに頼ってしまうのは危険です。社会人としてのスタートダッシュをしっかりと切るためにも「自分が活き活きと働ける社風かどうか」を見極めることは「何をするか」と同じぐらい重要です。皆さんの意思決定をより良いものにするために、企業の歴史に目を向けてみてはいかがでしょうか。

編集:

記事を共有する

注目企業