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INTERVIEW

コンサル出身経営者が3度目の起業で見つけた使命。データで挑む社会課題解決

「普通の人は3回も起業しないと思います。合理的でないので」。コンサルティングファーム複数社を経て、海外大学でのMBA取得、3度の起業を経験しているHacobuの佐々木氏。なぜコンサルタントから起業家へキャリアの舵を切ったのか、なぜ3度もリスクを取って起業したのか? 佐々木氏の個性的な経歴を紐解きながら、意思決定で大事にしていることや、現在取り組む物流領域の課題解決に対する思いを聞きました。


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話し手

佐々木 太郎

佐々木 太郎

株式会社Hacobu
代表取締役社長CEO

SECTION 1/5

留学で気づいた、漠然とした不安の正体

⸺コンサルティングファーム、MBA留学を経て、物流領域への課題意識から起業を決意されたという佐々木氏。MBA留学を志したきっかけは何でしたか?

佐々木:大学時代から、海外を知っている人は見えている世界が違いそうだと感じ、いつかは海外留学がしたいと思っていました。転職を機にその気持ちが落ち着いたこともありましたが、2年ほどするとまた沸々と海外に行きたいという思いが再燃し始めたんです。行動に移さないといつか後悔すると思い、MBA留学を決意しました。

⸺通常、MBA取得後の給与上昇やリターンがコストに見合うのかは、留学を決意するかどうかの大きな論点になりますよね。

佐々木:当時授業料だけでも2,000万円ほどかかり、現地での生活費や留学中に働いていたらもらえたはずの給与も含めるとおよそ5,000万円のコストがかかる計算でした。経済的リターンを考えていてはとても決断できない金額なんですよね。それよりも、現地の人や留学生との関わりを持ちたいという好奇心を優先することにしました。

MBA留学を経験したあとの最も大きな変化は、自分の人生を生きていいんだと思えるようになったことです。アメリカの西海岸で出会った現地の人たちは、そんなにリスクのある意思決定をしても大丈夫なのかと、こちらが心配になるくらい自由な生き方をしていて驚きました。自分の決めた道をのびのび楽しそうに歩んでいる人が多かったんです。最短でリターンを得られるショートカットのルートを探して乗る以外の生き方もあるんだなと肩の力が抜けました。

思えば、最短ルートを選ぼうとしていた頃は「このルートであっているのだろうか?他のルートのほうが良かったんじゃないか?」という漠然とした不安が常につきまとっていました。起業して自分の決めた道を歩めるようになってからは、この不安はなくなりましたね。

SECTION 2/5

120%当事者として仕事に取り組む楽しさ

⸺ルートを外れてもいいんだと思ったあとに、起業に挑戦したのはなぜですか?

佐々木:大学時代、自分で事業をしている方と会う機会があったのが、起業に興味を持った最初のきっかけです。サラリーマンである自分の父とはどこか違っていて、仕事に対しての当事者意識が高い人生を生きているな、自分もそういう人生を生きてみたいと思いました。

1回目の起業は、MBA時代の友人から「事業案があり、投資家もいるんだが起業に挑戦してみないか?」と声をかけられて挑戦しました。

実際に事業を始めてみて、コンサル時代の仕事とは全く違うとすぐに実感しました。コンサル時代ももちろん頑張っていましたし成長実感もありましたが、極論やはり他人の事業であって、いくら忙しくても80%くらいの出力で仕事をしていたんだなと思います。起業後は自分の力を精一杯出して頑張らざるを得なかったので、120%の力で仕事に取り組むようになりました。働いていること、生きていることが実感できて心地よかったですね。幸いにも事業を軌道に乗せ、黒字化することができました。

しかし、2回目に立ち上げた食品のECサービスは、思うようにいかなかったんです。気づけば3年間ほぼ無給で働いており、どうすればよいか途方に暮れました。

そこで、とにかく当面のキャッシュを稼がなければと考え、知人に紹介を受けた会社のコンサルティングビジネスの立ち上げを手伝ったことが、Hacobu創業のきっかけとなりました。クライアントとして卸売子会社と関わる機会から企業間物流を知り、この業界で起業したいという強い思いを持ったんです。

SECTION 3/5

見つけた使命は、DX未開の地の変革

⸺3年間ほぼ無給だったところから、3回目の起業へさらなる挑戦をしたんですね。なぜ物流領域を選んだのでしょうか?

佐々木:物流は、人々の暮らしの根幹を支えるインフラであるにも関わらず崩壊の危機に瀕しており、課題解決に取り組む意義が大いにあると感じたからです。

物流というと、体育会系で肉体労働というイメージがあると思います。実際に、電話やFAXが主流の労働集約的な現場は、長時間労働や気合と根性で回されていました。しかし、こうした今までの業界の常識を抜本的に変えなければ、物流インフラが崩壊しかねない状況にあるのです。

例えば、「2024年問題 ※1」では、荷物の量に対してトラックドライバーが不足し、物流が崩壊する可能性が指摘されています。実際に物流が滞ったイギリスやスペインではスーパーの棚が空になり生活に支障が出ている例もありますし、工場に原材料が届かなくなれば製品が作れなくなるわけで、事態は深刻です。

しかし、物流の知見も全くなく、成功する保証も元手もないのに起業をするなんて我ながら思い切った決断をしたなと思います。実は3回目の起業をする前に、エージェントからとあるベンチャー企業のジェネラルマネージャーのオファーをもらっていたんです。ストックオプションもあるから、2年働いて元手を作ってから起業したら良いと提案されました。

仮にこのオファーを蹴って起業に挑戦したら、自分は生きていけるのだろうかと悩みました。しかし、物流領域へ挑戦してみたいという思いに嘘はつけませんでした。MBA留学や起業への挑戦と同じように、この気持ちを抑え込んでオファーを受けても、いつか行動に移したくてたまらなくなるときが来るという確信があり、直感を信じることにしたんです。もたもたしているとチャンスを逃してしまうという気持ちもありました。

※1 参考:経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」(2022-9)

SECTION 4/5

ミッション・ビジョンは人を動かす原動力

⸺1回目や2回目の起業との違いはありましたか?

佐々木:社会的意義のある事業だと確信を持てていることが大きな違いです。

今までの2回は「あれば楽しい」事業でしたが、今回は物流の課題解決に向き合っている点が異なっています。だからこそ、私自身も強い当事者意識を持って取り組めていますし、周囲の方々にも本気度と思いが伝わっているのではと思います。

幸いにも、我々の志に共感してくれる企業も多くあり、豊田通商、野村不動産グループ、日野自動車など多くの事業会社からの出資を受けています。サービスシェアもNo.1 ※2で、現在国内ドライバーの2人に1人 ※3に利用いただいています。

協業先やサービス利用が広がっているのは、現場にとって使いやすく改善につながるサービスであることはもちろん、「運ぶを最適化する」「持続可能な物流インフラを創る」というミッション・ビジョンに共感してもらえているからだと思います。

⸺DXは他業界でも推進されていますが、なぜ物流の問題は解決されないまま残っていたのでしょうか?

佐々木:物流情報のデータ化が進んでいないことが大きな要因です。

企業間物流には多くの企業が関わります。物流の上流から下流までをたどると、メーカーの工場・倉庫、流通事業者の物流センター、小売事業者の店舗の順で物が運ばれており、その間を繋ぐ役割を運送会社が担っています。

現在、これらの企業と運送会社間でのやり取りは紙・FAX・電話が主であり、データ化や管理形式は全体最適化されていません。そのため、仮に案件ごとの効率化が進んだとしても、物流の上流から下流までのオペレーションの統一は難しい状態でした。

2024年問題の解決のためには、ドライバーの生産性を下げる障壁を取り除く必要がありますが、アナログな情報管理が主な現状では課題が見えず、打ち手の検討が進みません。そこで、企業の枠を超えたデータの蓄積を行えるようになれば、企業間や物流プロセス全体での最適化、物流効率の向上に取り組みやすくなります。

例えば、トラックの位置情報管理をデジタル化すると、走行ルートや距離、待機時間が可視化され、非効率な輸送を特定できます。こうしたデータを踏まえて効率化が進めば、ドライバーの負荷を減らすことにつながります。

さらに、データの分析・活用が進めばよりよい物流のあり方の議論も進めやすくなるでしょう。物流領域全体の最適化を図るため、Hacobuでは物流情報のデータ化、企業間での情報共有が行えるプラットフォーム創りを目指しています。

⸺物流領域の理想像はどのようなものなのでしょうか?

佐々木:データをもとに新しい物流のあり方を考え、イノベーションが創出できる領域にしたいです。

プラットフォーム化を進めてデータを蓄積し、複数の会社が関わる物流の全容を可視化できれば、今までブラックボックスであった業界課題が浮き彫りになるでしょう。

海外では物流の最適化を担当するCLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)がいる企業もあるくらい、重要な経営課題の一つとして物流に向き合う姿勢が見られます。日本でも物流の重要性と面白さをもっと知ってもらうためにも、アナログで長時間労働、低賃金という従来の業界イメージを払拭していきたいです。魅力を伝え続ければ、他の業界からもやりがいのある課題を解きたい人材が集まり、イノベーション創出が進むと考えています。

※2 トラック予約受付サービス「MOVO Berth(ムーボ バース)」のシェア。参照:デロイト トーマツ ミック経済研究所『スマートロジスティクス・ソリューション市場の実態と展望【2022年度版】』

※3 2015年の従事者数75.7万人を元に試算。累計利用ドライバー数は、利用者が「MOVO Berth」を利用する際に登録するドライバー電話番号のID数より算出。参照:国土交通省「物流生産性向上に資する幹線輸送の効率化方策の手引き」

SECTION 5/5

最短距離を歩まない人生のすすめ

⸺キャリアに迷う学生に向けて、アドバイスをお願いします。

佐々木:とにかく興味のあることにはチャンスを逃さないうちに挑戦してみてほしいですね。

私自身、今でも決断をするときは迷うことばかりです。しかし、今までの経験それぞれが今の自分に繋がっていると感じていますし、興味を持ったことに挑戦する経験を積み重ねてきたので、自分の直感を信じられるようになってきました。

2回目の起業で苦戦して、将来が分からなくなってしまったときに思い出したのは、大学時代に受けた「やりたいと思ったことはやったほうがいい。後でどこかで繋がってくるから大丈夫」というアドバイスでした。スティーブ・ジョブズのコネクティング ザ ドッツの考え方ですね。

当時はピンとこなかったんですが、今振り返ると本当にそうだと思いますし、学生の皆さんにも同じアドバイスを送りたいです。今はまだわからなくても、自分の興味があることに120%の力を注いだ経験は必ず生きてきますし、最短距離を目指して手元のリスクとリターンを計算している人よりも、最終的には大きなものを得られるんじゃないでしょうか。

レールから外れても、自分のやりたいことに120%力を出したい、社会にインパクトをもたらせることがしたいという人に来て欲しいです。最後の暗黒大陸を泥臭く変えていく、将来の仲間にお会いできることを楽しみにしています。

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