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EVENT REPORT

大手の異端児が語る「事業づくり」と「キャリア形成」

未来を「かたちつくる」トップビジネスパーソンが集結するイベント「Goodfind Shapers Tokyo2019」。本記事では、日本を代表する大企業の中で、特色ある働き方を実践する3名による対談の様子をご紹介します。

SPONSORED BY 日本たばこ産業株式会社

話し手

歸山 和大

歸山 和大

日本たばこ産業株式会社(JT)
たばこ事業本部 マーケティング企画

那須井 俊之

那須井 俊之

三菱地所株式会社
新事業創造部 DX推進部 主事

佐々木 謙一

佐々木 謙一

Hmlet Japan株式会社
代表取締役CEO

SECTION 1/4

登壇者紹介~大企業での異色のキャリア~

──はじめに自己紹介と企業紹介をお願いします。

JT 歸山(かえりやま):新卒で日本たばこ産業(以下、JT)に入社し、経営企画部に配属されました。その後すぐに関連会社へ出向し、アプリビジネスの立ち上げを手掛けました。

出向先から戻った現在は、たばこ事業本部のマーケティング企画担当として、社内代理店のような立場でマーケティング機能のインハウス化やデジタルテクノロジー活用のプロジェクトなどを推進しています。

学生時代の話をすると、元々リクルートやDeNAのような企業を見ていたんです。学部2年から4年まではベンチャーで新規事業立ち上げを経験したり、実際に志望していたDeNAでも半年間インターンをして、「すごく働きやすくて、魅力的な会社だな」と思っていました。

そこからなぜJTに入社したのか。それは僕の就活の軸が「潰れそうな会社にいくこと」だったからです。うまくいっているイケイケのベンチャーはトップダウンになりがちですが、僕は自らの問題意識をしっかりと持った上で仕事をしたいと考えていました。

JTは安定した企業に見られがちですが、実際には変化が多く、その裏側には様々なチャレンジや失敗もあり、社内には健全な危機意識があるんです。

歴史を紐解くと、専売公社として始まり、1985年に民営化してできたという珍しい経緯があります。その後、単一事業と国内市場縮小への危機感から、事業の多角化や海外企業の大型買収を通じたグローバル化を進めてきました。

現在たばこ市場では世界第三位、売上は2兆円を超え、他にも医薬や加工食品、近年ではデバイス開発も手掛けるなど、変化の多い企業です。そういう会社は「上に自信がなくて、下(若手)に権限がある」という、僕なりの仮説を持ってJTに入社しました。

実はJTには「新しいやり方をやっていかなきゃ」「新しい人を採らなきゃ」という流れがあって、若手に裁量を持たせて任せる風土があります。

後ほど話をしますが、実際に僕が学生時代にベンチャーでデジタル界隈にいたことから、入社後はその経験を活かせるような仕事を任せてもらえますし、自分でも社内で案件を取りながら、伸び伸びと働いています。

三菱地所 那須井:現在、新事業創造部でスタートアップ企業やVCに出資をしたり、業務提携をしたりして新事業を創っています。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進部を兼務し、デジタル技術を活用した既存事業の変革にも携わっています。

学生時代はテレビ局のアルバイトで音楽番組に携わる中で、「みんなで一つの物を作ること」にやりがいを感じたことから、総合不動産デベロッパーを目指すようになりました。

現在不動産業界は、人口減少などの影響により、ビルや住宅、商業施設だけでは厳しい局面に立たされています。そうした背景から、三菱地所では2014年に新事業創造部が立ち上げられました。社長直轄で自ら新事業を創り、また社内で新事業が創出される風土づくりもしています。

最近では当社事業周辺領域においても日本進出をしてくるGAFAや事業環境の変化に立ち向かうために、ベンチャー企業への出資や協業で色々な事業を手がけています。領域は不動産テックに限らず、農業系から宇宙系まで、フィールドも国内から海外まで、幅広く出資しています。またベンチャーと共に会社(ジョイントベンチャー)を創っていて、Hmlet Japan社もその1社です。

Hmlet Japan 佐々木:私が就職活動をした時代は商社やデベロッパーが人気でしたが、「いろんな人と大きな仕事をしたい」と考えて三菱地所に入社しました。最初は丸の内の再開発に携わり、30歳前後で人事に、その後シンガポールに駐在しました。

現地ではいろんなデベロッパーと協業し、三菱地所が持つノウハウをアジアでの開発に役立ててきました。その傍ら、不動産×テクノロジー分野で有望な会社と複数出会い、2019年10月からHmlet Japanを組成しCEOを務めています。

Hmletが進めている“Co-living事業”はweworkの住宅版で、2015年頃にニューヨークやロンドン、シンガポールで生まれました。若者世代の嗜好性を活かしたシェアハウスに似ていますが、コミュニティマネージャーを配置して入居者のネットワーキングをサポートしたり、アプリを活用した家事サービスも提供したりしています。

シェアハウスとの違いは、一つの建物で完結せずエリア単位でコミュニティ運営をする点で、アプリ内でHmlet入居者が瞬時に繋がれる仕組みをつくっています。日本第一号が12月に渋谷にオープンしました。

SECTION 2/4

大手なのにベンチャー?大手だからこそできるプロジェクト

──大企業ならではのリソースを活用したプロジェクトのご経験について教えてください。

JT 歸山:入社して最初のプロジェクトは、関連会社への出向という思いがけない形でした。でも今思い返すと、入社前面談で人事に伝えた自分の発言がそのまま跳ね返った配属なんです。

例えば「一人でやるのとみんなでやるのと、どっちがいい?」と聞かれた時に、僕は「みんなでやると遅くなるので一人がいいです」と答えていました。多分それを人事が汲み取ってくれたんだと思います。

最初の3年間は出向先で「社内一人ベンチャー」さながら、アプリ立ち上げに取り組みました。システムもデザインもCSもPRも法務も、全部一人でやってましたね。

しかし、一人で仕事をするというのは想像以上に大変で、自分で「一人でやるのがいい」と言ったものの、実際にやってみると事業がうまくいかない局面に入り、社内のいろんな人と話をしました。入社前は「JTに優秀な人なんていないだろう」と思っていましたが、いざ話をしてみると実はすごく優秀な人がたくさんいたんです。とてもありがたかったです。

彼らと会話しているうちに、元々たばこ単品の会社だったこともあって、例えば「デジタルというケイパビリティ・リテラシーが低い」など、社内に問題が沢山あることが分かりました。

幸いにも、僕が学生時代にベンチャーでデジタルに携わっていて、入社後も3年間一人でアプリ立ち上げに関するあらゆることを経験し、社内外にサポートしてくれるネットワークがあったので、それらを活かせば社内の問題を解決できると考え、「じゃあ、JTを自分のクライアントとしよう」と決めました。

そのような経緯で、出向先から戻り現在の社内代理店プロジェクトを立ち上げました。具体的には、社内の課題を自分で見つけて外部のスペシャリストと協業して解決までを担う、JTをクライアントとした実行部分も含んだ社内コンサルみたいなことをしています。

例えば「自社WebページのUX改善をした方が良い」と思ったら、社内営業をして予算をもらい、取引先を選定して、発注、ディレクションするというように、主体的にどんどんプロジェクトを進めていきます。

三菱地所 那須井:「面」で開発しているのが三菱地所の特徴で、大企業ならではのメリットです。例えば、ドローンやセンサーの技術を持っている会社が、その技術を使える場所やデータを取れる場所が必要な時に、大手町、丸の内、有楽町、みなとみらい、大阪駅前などを面で開発している三菱地所は相性がいいんです。

我々のリソースである不動産とベンチャーの技術は、相互補完し合えるパートナーとして協業しやすいんですね。

また三菱地所という看板があることで、こちらからドアノックせずとも例えば不動産テックならばある程度情報が集まってきたり、いろいろな案件が舞い込んで来たりします。特に私のように協業先を探す役割においては、一人で頑張っていても会えない人や会社と会えるのはすごくありがたいですね。

印象的なプロジェクトを挙げるならば、Uber eatsのような事業をやっているスカイファーム社への出資です。アクセラレータープログラムという、三菱地所のリソースを使って事業をやりたい企業を募る取り組みに応募していただいたご縁です。

このプロジェクトでは、街や地方公共団体も巻き込み、実証実験の場所として我々を活用してもらっている点がすごく面白いと思っています。

Hmlet Japan 佐々木:シンガポールの不動産テックスタートアップHmletは、Co-living業界の中で世界トップ3に入る、グローバルで戦っている企業です。アジアでビジネスをしているHmletにとって、日本が一番大きい市場なんです。

そこで立ちはだかるのが、言語と慣習の壁。そもそも海外企業が日本国内の建物を安く借りることが難しい中で、三菱地所にはデータがあり、日本人の感覚や慣習もわかっています。潤沢な不動産情報から建物を安く借りてお客さんに貸すことができるんですね。

対してHmletはコミュニティ運営やアプリやテックアナロジーを提供できるので、会社と会社としてうまくコラボレーションをしたプロジェクトだと思っています。「自分が持っているものの価値は自分では分からないけれど、他人が見た時に分かる」ということの一例とも言えますね。

SECTION 3/4

大企業でコモディティ化しない働き方とは?

──働く上で大事にしているキーワードと、現在のキャリアに至ったポイントをお聞かせください。

三菱地所 那須井:三菱地所って堅いお役所みたいなイメージがあるかもしれません。でも実際は人数も少なくてメガベンチャーと規模はそれほど変わらないんです。色々な制度も充実しているし、意外かもしれませんが副業も解禁されています。

「10%ルール」というのがあって、年間10%は自分の事業以外のことをやりましょうという制度です。新規事業でも会社設立でも、自分が面白いと思うことを自由にやっていいんです。

会社の方針としても、社員一人ひとりが色んな所にネットワークを作って何かをやっていくということを重視されていると思います。

Hmlet Japan 佐々木:コモディティ化しないためには「自分のやりたいことをやる」のが大事ですが、大企業に入ると、まずは上司が求めることを短時間で高いレベルでクリアする必要があります。

でも逆に、着実にこなしていけば、空いている時間であれば、自分のやりたいことをやっても文句を言われなくなりますし、社内でも色んなことやっているなと思われるようになります。

そうやって基礎的な処理能力を速めたり、本を読んで視野を広げたりしながら「社内の自分の所属以外では何が起きているのか」を把握するのがポイントです。すると、より高い次元での意思決定が出来るようになるので、万が一、上司と意見が分かれることがあっても、自分の考えやアイデアを、自信をもって説明することが出来るようになります。

JT 歸山:一つ目は「自分のスタンスを曲げない」こと。正直、入社当時はすごく辛かったんです。なぜなら当時の僕はDeNAやリクルートのようなベンチャー的なマインドが強く、JTにいる人たちと異なるところが多かった。

ただ、そこで周りに流されずに、社内の人たちをリスペクトしながらも、「どうやってスタンスが違う人たちと協業して最大のバリューを発揮できるか?」ということを考え続けました。

二つ目は「ちゃんと説明する」こと。仕事をする上では会社のshould、自分のcan、自分のwillがありますが、ここにズレがあると大きな組織では上手くいきません。大きな仕事こそいろんな人の協力や調整が必要です。そのためには、ちゃんと説明して周りを説得できるように成長しないといけません。

また、自分をフラットに捉えることも必要です。経営企画や新規事業をいきなりやりたがる人がいますが、「willだけじゃなくて会社のshouldや自分のcanがそこにあるか」という視点が抜けていることが多いですね。自分も最初は中々自分がやりたいことが通らず、悩んだ時期がありました。今も思えば、独りよがりな我儘な意見が多かったと思います。

三つ目は「自分の会社をかわいいと思えるか」。僕の場合、会社をかわいいメンヘラ女子だと思ってプロデュースしているという感じですかね(笑)。JTって僕の中で「すごく美人で真面目だけど、どこか病んでいる女の子」というイメージなんですよ。

多角化が上手くいかなかった、過去の深い傷や社会的なバッシング……。だから「こないだすごくいじめられたし…」って泣いているところを、「がんばろうよ」って励ましながらうまくプロデュースしてあげたいんです(笑)。

あくまでも例えですが、こんなふうに会社のイメージと自分の関係をちゃんとデザインできて、その関係性が心地いいかどうかというのは、就活を通していろんな会社や人を見る際に持ってほしい視点です。

──JTさんらしいと言いますか。会社を好きな方が多いですよね?

JT 歸山:好きなひとが多いですね。JTにはいろんな人が集まっています。入社するにあたって、商社と悩んだ人、ベンチャーと悩んだ人、外資コンサルと悩んだ人‥‥。いろんな人がいて、入社理由にも「その人らしさ」が反映されているからそれぞれ面白い。

なぜかというと、親御さんや友達から必ず「何でJTに入るの?」って聞かれる会社ですし、自分のことばで「なぜJTに入るのか」を本音でちゃんと語れる人しか入ってこないからです。

採用の段階で、志望動機は聞かれません。むしろ対話を重ねる中で「自分はどんな人で、何が好きなのか」といった、ありのままの姿を引き出されるでしょう。自分らしく居られる時こそ最大限の力が発揮できるという考えのもと、入社後にも自分らしく、考えや想いを伝えあうという文化がありますね。

SECTION 4/4

大手とベンチャーでの成長の違い

──会社に入ってできた成長は何でしょうか?大手とベンチャーでできる成長の違いはありますか?

三菱地所 那須井:私はベンチャーの中で働いたことはないものの、ベンチャー投資や協業をしている立場からお話すると、大企業ではアイデンティティを得る事ができます。つまり「自分は何者か」という軸ができたと思います。

私の場合は、用地仕入れや販売・管理まで、不動産開発を一からやった経験があるからこそ、業界の現状や課題が隅々までわかります。色んな優秀な人たちが活躍している世の中で、自分の強みや能力をつけていくためには、大企業で働く意味も十分あると考えています。

Hmlet Japan 佐々木:ベンチャーでは何でも自分でやるので量も速さも求められます。一方で、大企業では求められるレベルが高い事業や大規模なプロジェクトがあります。

また、協力者を集める時に、ベンチャーはビジョンを見せて共感を集めていきますが、大企業には大企業のロジックが働いていて、正しいことが必ずしも通るわけではないんです。

会社の置かれている状況、社内の人間関係も含めて、何をどう動かすと最終的にどうなるか。誰をどう巻き込むかを実地で練習できるのが大企業の良さだと思います。

JT 歸山:大手とベンチャーのどちらも一応経験した立場からすると、ベースはそんなに変わらないです。

一つ違いがあるとしたら、「大きなリソースを大人数で動かすためにはどうしたらいいか」というケイパビリティは、大企業の方が身についたと思います。

速く行くには少人数、遠くに行くのは大人数、という言葉がありますが、それで言うと「ベンチャーでは速く短く行くスキル」「大企業では大人数で遠くに行くためのスキル」を磨けるのではないでしょうか。

一方、そういった考え方も今は少しずつ変わってきていて、ベンチャー界隈の友達と会話をしていると、ベンチャーの組織規模が大きくなるにつれ、「ベンチャーをどうやって大企業のようなちゃんとした組織体にするか?」という悩みが出てきているらしいです。

きっと僕はその逆で「大企業のような組織体に、どうやってベンチャー的なスタンスをインストールするか?」にチャレンジしているのかなと。それは、元々ベンチャーを狙っていながらあえてJTに入社した自分がチャレンジしたい領域です。これからどんどん外部環境の変化が激しくなっていく中で、特に変化をしなくてはならないのは大企業ですから。

大手かベンチャーかという2軸ではなくて、実際に人と会って相性を確かめながら、自分らしく働ける場を見つけてほしいですね。

編集:

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