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大手外資を凌ぐSaaSベンチャーが語る「事業戦略の思考法」

皆さんは、類似した事業を手掛ける企業の勝敗は、何によってつくと思いますか?資本力、会社の規模、知名度・・・そうしたものが思い浮かんだとしたら、それは既に古い常識かもしれません。

実際、資本力や規模では大きく下回るにも関わらず、マイクロソフトなどの巨大企業とも肩を並べる日本発のベンチャー企業が存在します。それを可能にしたのは、彼らの優れた経営戦略です。本記事では、これからの時代に競争優位を築くために重要な「戦略」について、優良企業を事例に紐解きます。

SPONSORED BY 株式会社kubell(旧Chatwork)

話し手

山本 正喜

山本 正喜

株式会社kubell
代表取締役 兼 社長 上級執行役員CEO

福田 升二

福田 升二

株式会社kubell
取締役 兼 上級執行役員COO

SECTION 1/5

現代では優れた「知」が競争優位を築く

皆さんは「知識集約型社会」という言葉をご存知でしょうか?それは「知」による価値創造が差を生み出す社会のことで、現在は知識集約型社会への大きな転換期であると、政府の文書をはじめ各所で言及されています。

「知」が重要になる理由の一つが、テクノロジーの発展がもたらしたモノやサービスを生み出すコストの大幅な低下です。私たちは現在、インターネットを通じて様々な情報を無料で手に入れることができますし、そうした情報を元に自らサービスを開発・リリースするのも、ウェブ上のツールを駆使すれば莫大な費用はかかりません。

こうした社会においては、資本力や社員数以上に、優れたアイデアや戦略、その実行スピードが競争優位性となるという事実は、きっと皆さんの実感とも大きくずれないことでしょう。

もちろんインフラ系など、引き続き資本力が重要になる産業もありますが、世の中の大部分では優れた知的生産こそが競争優位性となっていきます。

その好例として、優れた戦略を武器に165名ほどの従業員数で巨大企業を凌ぎ、ビジネスチャット領域で国内利用者数NO.1※1を獲得したChatwork株式会社(現 株式会社kubell)という企業があります。

彼らはどんな戦略で、巨大企業に勝ち得たのか?これからの時代の優れた戦略とはどんなものなのか?また、優れた戦略を生み出す人材になるためにはどうするべきか?そのヒントを探るべく、Chatwork株式会社 代表取締役CEOの山本氏と、執行役員CSO(Chief Strategy Officer)兼ビジネス本部長の福田氏にお話を伺いました。

※1 Nielsen NetView および Nielsen Mobile NetView 2020年6月度調べ月次利用者(MAU:Monthly Active User)調査。調査対象44サービスはChatwork株式会社にて選定。

SECTION 2/5

これからの戦略は、実行を包含する概念だ

──まずは優れた戦略とは何なのか、CSOの福田さんにお話を伺います。福田さんは、「これからの時代の戦略は、そのなかに実行と修正を含むものだ」とお話されていると聞きますが、それはなぜでしょうか?

福田:そもそも戦略とは現状から目的地に到達する手段のことです。戦略作りの難しさは、戦略に影響を与える前提が無数に存在することにあります。

前提には例えば、市場や競合などの外部環境、自社の状況の内部環境などが含まれますが、変化の速度や不確実性が増す現代では、前提の中で「わからないこと」の割合が非常に大きくなっています。新型コロナウイルスの蔓延により企業のDX需要が急増したことも、予測のできなかった前提の変化と言えます。

このような状況下では、最初から完璧な戦略を作ることはまず不可能です。仮置きの戦略を描き、実行し、うまくいかなければ修正する。実行したからこそ理解できる前提が増えていき、それを踏まえて戦略の妥当性を高めていく。現代の戦略作りとは、こうした作業の繰り返しのことなんですよね。戦略そのものをPDCAとして回す必要があるんです。

──戦略は一度作って終わりではなく、常に実行とセットで更新し続ける必要があるものなんですね。

福田:そうなると、今後は自社で戦略を作れない事業会社はかなり危ないと思いますし、逆に戦略だけを作れることにも価値はなくなるでしょうね。

外部から戦略だけを納品しようとすると、クライアントが実行できる具体的な戦略を作るために、わかっていない前提もわかっていると仮定する他ありません。でも本当はわかっていないのだから、当然その戦略は外れてしまいます。

さらに一番問題なのが、納品された側は戦略のなかで何が自明で何が不明だったのか、想定で置いたのはどの部分なのか、という整理ができていないことです。失敗した後に正しい修正ができないというのは、非常にまずい状態ですよね。だからこそ、戦略づくりと実行は両輪であるべきなんです。

執行役員CSO兼ビジネス本部長 福田 升二氏

──戦略と実行を両輪で回すとは具体的にどういうことなのか、福田さんのご経験を伺えますか?

福田:2020年4月に1回目の緊急事態宣言が出た際、当社には何千件という、前代未聞の量の新規問い合わせがありました。この状況が長く続くのか、すぐに収束するのか。どちらの前提に立つかで戦略は全く違うものになりますが、その時点では誰も答えを持ち合わせていません。

そこでいったんは状況が長期化する前提で戦略を立てましたが、蓋を開けてみたら2~3ヶ月で状況は想定したものと比べて収束したんです。その時点でまた戦略を修正し、対応を進めていきましたね。

──確かに、誰も経験したことのない状況においては、正しい戦略を立てる力よりも、戦略を素早く修正していく力の方が重要になりそうです。

福田:戦略の修正には、原因の正しい見極めが重要です。実行力が不十分であれば、仮説が間違っていたのか、実行力に問題があったのかが判断できないため、「正確に仮説検証し、正解に近づいていく実行力」もこれから非常に重要になる力だと思います。

SECTION 3/5

投資家も注目する、巨大企業と渡り合える理由

──ここからはChatwork社が具体的にどんな戦略で巨大企業と戦ってこられたのかを、CEOの山本さんのお話から紐解いていきたいと思います。まず始めに御社の事業の概要を伺えますか?

山本:当社の事業はビジネスチャットで、日本国内では利用者数でNO.1となっています。ビジネスチャットは、LINEやFacebook Messengerのビジネス版だと考えてもらえたらわかりやすいと思います。

コミュニケーションツールの歴史を振り返ると、手紙→電話→FAX→メール・・・と、より効率の良いものへと不可逆な変化が起きています。皆さんも今からLINEをメールに戻してください、と言われてもきっと無理だと思いますが、同様の変化が現在ビジネスの世界でも起きているんです。

代表取締役CEO 山本 正喜氏

──ビジネスチャットは現在どのくらい普及しているのでしょう。

山本:私たちが第三者機関に依頼した調査によると、現在日本でビジネスチャットツールを使用している企業は全体の12.5%※2です。8~9割は、未だにメールや電話、FAXを使用しているので、成長余地が非常に大きい市場だと言えます。

ビジネスチャットは競争環境が厳しいのでは?と仰る方も多いですが、実はまだ普及率が十数%という段階なので、どちらかというと競合はメールなどの旧システムなんです。

※2 Chatwork株式会社依頼による第三者機関調べ、n=30,000

──とはいえ同じ領域には外資系の巨大企業が手掛ける競合が複数存在し、決して競争が楽な市場ではないと思います。御社はどのような戦略で、国内利用者数NO.1という成果を上げられたのでしょうか?

山本:競合が狙っていない中小企業マーケットを取りにいきました。

BtoBでは、まずは大手企業を狙うのが定石なんです。なぜなら中小企業は、小さい会社1つ1つに営業やマーケティングをかける手間の大きさや契約単価の低さから、非常に効率が悪いとされているからです。そのため中小企業は、日本企業の9割を占める規模を持ちながら、最初には狙われないマーケットだったんですね。

しかしChatworkは、そんな中小企業マーケットで思わぬ広がりを見せていました。

その理由は、チャットは常に複数名で使用するツールであり、口コミが広がりやすい特性があったからです。特に中小企業は大企業とは違って社内だけで業務が完結しないことが多く、取引先も多岐にわたります。そのため、社外の人にChatworkでのコミュニケーションを打診する機会も多く、紹介が紹介を呼ぶネットワーク効果が生まれ、契約数が伸びていたのです。

「メインユーザーが中小企業であり、既存ユーザーからの紹介で契約が伸びている」という自分たちのユニークネスに気がついてからは、一貫してその強化のための戦略を取ってきました。

ITにあまり詳しくない中小企業の方々でも使いやすいサービス設計や、社外のユーザーともシームレスに繋がることができる仕様への改良、基本料金を無料とするフリーミアムモデルの導入、サポートの強化など、他社とは明確に異なる戦略です。

──効率が悪いとされてきた中小企業マーケットを取り込む仕組みを構築したことが、御社の強さの源泉だったのですね。

山本:効率の悪さに加え、中小企業ではIT化のニーズが顕在化していないのも大きな壁です。しかしDXという言葉さえ知らない企業でも、取引先に1社でもChatworkを使っている企業があれば、否応なくChatworkを使うことになります。

このように、顧客ニーズが顕在化していない状態でも、サービスの認知拡大を図れるインパクトは強烈です。競合が何十億円もの予算を投じてマーケティングをしているなか、私たちがその十分の一の予算で戦えている理由はここにあります。

──つまりは同じビジネスチャットでも、競合他社とは全く違うマーケットで勝負しているということでしょうか。

山本:棲み分けを図式化すると以下の通りです。

A社はもともとエンジニア向けのプロダクトとしてスタートしており、ITリテラシーが高い人向けの設計でした。リテラシーは大企業の方が高い傾向にあるので、対象も自然と大企業になります。B社は元々大企業に強みを持っており、A社への対抗策としてビジネスチャットを作りました。Chatworkはそこから距離を取り、社員数300名以下で、ITにあまり詳しくない企業にフォーカスしているのが特徴です。

SECTION 4/5

戦略=あくまでミッション達成の手段

──165名ほどの規模でここまでの存在感を発揮されていることに改めて驚きます。規模が小さくとも優れた戦略があれば巨大資本の企業と戦えるという好例ですよね。

福田:私もChatworkにジョインする前は、「こんなに小さい会社がなぜ、資本力勝負になりそうなマーケットで巨大企業と戦えているんだろう?」と思っていました。同様の疑問はよく投資家からも投げかけられます。

世界各国の企業がGAFAなどのテック・ジャイアントに惨敗する中で、日本企業が“ジャイアント・キリング”を起こす姿を世に示せるというのは、とても夢がありますよね。私もそこに大きな魅力を感じ、Chatworkに入りました。

当社の強みを伸ばしていけば、数年後にはMBAの授業などのケース事例として「なぜChatwork社はテック・ジャイアントを相手に戦えたのか?」と取り上げられるのも夢ではないと思っています。

また、最近は業務効率化を掲げるSaaS企業が急増しているものの、日本の大部分を占める中小企業に向き合いきれている企業はまだまだ少ないのが現状です。そこに取り組める意義深さも、大きなやり甲斐ですね。

──確かに、中小企業のDXに向き合うことは戦略として優れているだけでなく、社会貢献性も非常に高いと感じます。

山本:私たちはただのビジネスチャット屋さんではなく、あくまで「働くをもっと楽しく、創造的に」というミッション実現のための最適な方法として、ビジネスチャットを広めています。Chatworkを利用し日々のコミュニケーションが変われば、人々の働き方にまで大きな影響をもたらすことができるでしょう。

──では今後はビジネスチャットの他にもサービス提供を予定されているのですか?

山本:ビジネス版のスーパーアプリになるという構想があります。皆さんがプライベートで利用するメッセージングアプリは今やチャットに限らず、決済や音楽、バイト探しなど様々な機能を搭載したものになってると思いますが、私たちはそのビジネス版を目指しています。

例えば請求書の発行やプロジェクト管理、ミーティングの日程調整など、様々な機能がChatwork上で利用できるイメージです。これにより、ユーザーのビジネスの基盤になりたいと考えています。

──現在勢いのあるSaaS企業の多くが、そうしたプラットフォーム構想を掲げているように思います。今後はビジネスチャット事業を行う企業だけでなく、プラットフォー厶構想を掲げる企業すべてと競合関係になるということでしょうか。

山本:確かに、1つのプロダクトで成功したら機能を拡張してプラットフォーム化するというのが、SaaSの典型的な展開パターンです。

しかしChatworkのように、あらゆる職種の全従業員が毎日朝から晩まで利用するSaaSは他にありません。日々の業務に欠かすことのできないツールだからこそプラットフォームとしての価値が高く、他のどんなSaaSよりもスーパーアプリとなるポテンシャルが高いと考えています。

SECTION 5/5

試行錯誤できる環境が、優れた戦略家になる鍵

──ここまで御社の戦略について伺ってきましたが、優れた戦略を生み出し実行できる人材になる秘訣についても伺えたらと思います。

福田:私は人の成長は環境に依存すると考えているので、環境選択が非常に大事だと思います。若くから沢山チャレンジさせてもらえるか、小さい範囲でも自ら仮説検証をして答えを出す力が養えるか、を見極めることが重要です。

私はよく魚釣りに例えるのですが、企業が若手の育成でやってはいけないことが2つあるんです。一つは、魚のいない池を渡して「気合いで釣れ!」と言うこと。もう一つは、魚がたくさんいて釣りやすい池を渡してしまうことです。そのどちらでも、大きな成長は望めません。

理想的なのは、魚がたくさんいるとはわかっているけれど、釣るのはすごく難しい池を渡すことです。もちろん最初に魚を釣るまでは大変ですが、様々な創意工夫をして、一匹釣れたらその時の条件をヒントに再び仮説を立てて釣りに臨むという営みが、戦略と実行の訓練になります。これを続けていると最終的には、上司にも魚がいるかどうかがわかっていない池を渡された際にも、魚の有無を自分で見極められるようになるんです。

──魚が多ければ良いわけではなく、釣るのが難しい池だからこそ自分なりの試行錯誤ができる、というのはなるほどなと思いました。

福田:踏まえて、変化が大きいマーケットで成長している企業を選ぶのはおすすめです。

成長している企業には、変化が大きいという特性があります。常識がどんどん変わり、誰も正解を知らないために、試行錯誤がたくさんできるんですね。一方で変化が少ない場所では、「営業はこうするものだ」「これをやっていればいいのだ」という考えになりがちです。加えて成長している企業ではポジションも空きやすいため、自分でPDCAを回す機会も得やすいと思います。

山本:伸びていて社会的な注目が集まっている領域には優秀な人が集まるので、そうした人たちと働けるという旨味もありますね。

また、特にSaaS企業は「顧客や世の中に本当の価値を生み出す力」を養うことができる点からもおすすめです。

私は仕事の源泉とは世の中に価値を生み出すことであり、その能力の多寡がそのまま市場価値だと考えています。しかし今までビジネスの世界では会社の利益と顧客の利益が相反する場合も多く、真っ直ぐに価値を生み出せる機会が意外と少なかったんです。

一方でSaaSは、継続課金制のビジネスモデルであるため、顧客をハッピーにし続けることが、自分たちの利益にも繋がります。「どうやったら顧客に価値を生み出せるか」に非常に真っ直ぐ向き合える点において、市場価値の根源となる力を養える環境だと思いますね。

──同じPDCAでも、顧客と向き合った本質的なPDCAの方がより価値が高いということですよね。

福田:一方で、現在は新たなSaaSが次々に登場しているため、SaaSといえどもピンキリだという認識はしておくべきかもしれません。SaaSという括りで選べば大きくは外さないものの、それこそ企業の戦略の質や事業のコンセプトには着目して企業選びをしてもらえたらと思います。


編集部:今回はChatwork社の事例から、優れた戦略こそが大きな競争優位性となることを見てきました。もちろん企業が競争力を担保するうえで大切な要素は戦略の他にもたくさんありますが、知識集約型社会への転換が進むなかで、重要性が高まる要素であることは間違いないでしょう。

「業界」や「会社規模」などの切り口と比べると顕在化しづらいからこそ、企業の「戦略の質」に目を向けられている学生はあまり多くないように思います。企業を見る新たな切り口の一つとして、その戦略の質や、自分が優れた戦略家に成長できる環境かどうかを意識してみると、新たな発見があるかもしれません。

編集:

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