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COLUMN

「新産業×キャリア」のプロが語る、事業責任者になるための思考法

自らの手で事業をドライブし、世の中に新しい価値を創出する───。「事業責任者」や「事業家」は近年、新たなキャリア目標として就活生の注目を集めています。そんな事業責任者になるためには何が必要なのか?長年成長企業や経営者を間近でみてきた、Goodfind代表の伊藤が、「環境」と「マインド」という2つの観点からこの問いを解き明かします。

話し手

伊藤 豊

伊藤 豊

スローガン株式会社
創業者

SECTION 1/5

大企業やコンサルは本当に事業責任者への近道か?

──事業責任者になりたい人のキャリア選択について、環境選びと持つべきマインドという2点からお話を聞いていきます。まず、環境選びについてはどうですか?

学生の皆さんは、まずは新卒で大企業やコンサルティング会社で経験を積んでから、ベンチャーやスタートアップに転職して事業責任者になろうと考えている人が多いでしょう。しかし残念ながら、大企業やコンサルティング会社で得られる経験が事業責任者のキャリアに直結するわけではありません。

まず、ベンチャーやスタートアップで事業を率いるために必要なのは、稼ぐ仕組みを0から作り上げる力と、多様な人材を統合できるマネジメント力です。

事業のスタート地点では「つくる」「売る」「組織をつくり拡大再生産する」といった機能が何一つ揃っていません。事業責任者には、このような不確実な状況の中で試行錯誤していく知力と忍耐力が要求されます。そして同時に、営業やマーケター、サービス・オペレーション、エンジニア・デザイナーといった異なる職能を有機的に結びつけ、事業成長に導く必要があります。

これに対し成熟した企業の既存事業においては、稼ぐ仕組みが既に確立されており、社員はその仕組みの上で働くことになります。さらに、大きな組織には分業化がつきもので、営業なら営業だけ、のように単一職種のみで構成された組織編成になることが多いです。オフィスのビルのワンフロアが全員営業部隊ということも有り得ます。こうした環境では事業責任者に必要な、職種的な広がりという意味での視野の広さは身につきづらいでしょう。

大組織の中でも、事業に必要なあらゆる職種の人たちがコンパクトにまとまって働いているような小規模な事業ユニットに属して働く経験のほうが、事業責任者になるうえで、有意義な経験になると思います。

──なるほど。他方で、コンサルティング会社は学生の間では「市場価値が高まる」という認識が強いです。ファーストキャリアとして良い選択なのでしょうか?

事業責任者へのキャリアという点では良い選択とは思いません。コンサルティング会社から事業会社に転職したとしても、経営企画などのコーポレート部門に配属されるケースが多いのが実情です。経営企画は、経営戦略や全社方針を立てたり、各部署の数字の取りまとめを行ったりする仕事で、事業を運営・経営するポジションではありません。

コンサルティング会社出身者が、意外と事業責任者などの事業運営側にいけずにコーポレートスタッフ側にとどまるケースが多いのは、経験がマッチしていないためです。新卒でコンサルティング会社に入社して任される業務は、分析や資料作成などの案件のデリバリーが中心で、営業として自力で案件を取ってくるような機会はほぼありません。マネジメントの立場になったとしても、メンバー全員がコンサルタントという単一の職種のみで構成される組織なので、さまざまな職種を束ねる事業責任者と比べるとマネジメントの複雑性が低いのです。

これに対し、事業責任者になるような人は事業の「現場で」お客さんに価値を提供する経験を積んでいます。サービス型事業であれば営業部門やサービス部門、プロダクト型であればエンジニアなどから始まり、各部門の責任者やプロダクトマネージャー(PdM)を経て事業責任者になっていくのが王道のキャリアです。

将来事業を作りたい学生が、この現実を知らずに「業界を幅広く見ることができるから」とコンサルティング会社に行ってしまうのは、非常にもったいないように感じます。事業責任者に直結する本当に必要な経験とは、若手のうちから事業運営に近いところの仕事に携わる経験なのです。

SECTION 2/5

事業家人材を輩出する組織の特徴

── そうすると、若手から事業運営に携われる環境はどのように探せばよいのでしょう。

見るべきポイントは大きく分けて、事業あたりの人数規模と組織カルチャーの2点です。

まず、企業規模が単に小さければいいというわけではありません。規模以上に重要なのは「事業あたりの人数規模(=社員数÷事業数)」が小さいことです。これはひとえに、事業の数だけ事業経営に近いポジションがあるから、という理由です。100人で1事業をやっている会社より、500人で8事業をやっている会社の方が、事業家人材が生まれる可能性が高いと言えます。会社として、複数の新規事業を展開しているフェーズであれば、より一層チャンスが回ってくる可能性が高いですね。

組織のカルチャーについては「年齢に関係なく期待されているか」が重要になります。いわゆる「若手からの裁量権」と近いこの要素を見極めるためには、新卒採用にどれだけ力を入れているか、どれぐらい本気で優秀層を採用しているかが一つの判断基準になると思います。

──多くの企業が「若手に裁量がある」ことを謳っていますが、若手への期待度が高い会社を見極めるにはどうすればよいのでしょう?

事業のビジネスモデルに注目すると良いかもしれません。実は、優秀な若手を積極的に抜擢し、事業家人材を生み出す組織は、資本集約型の事業モデルではないことが多いです。資源ビジネスやインフラなど、資本集約型の事業はとにかく資本がモノを言う世界なので、人的資本によって生み出す差分が相対的に小さいと言えます。そのため、経験年数が長く、 利害調整もできる年配者に任せていた方が安定するので、若手の優秀な事業家人材を抜擢するインセンティブがありません。

一方で、知識集約性・労働集約性の高い事業モデルでは、1人の優秀な人材が事業に与えうる差分が大きいので、結果的に事業家人材の渇望度が高くなります。だからこそ採用にも力を入れて、本気でいい才能を探しにいきます。

SECTION 3/5

事業責任者になりやすい人①自己中心性の低さと自責思考

──環境の次に、事業責任者になりたい人が持つべきマインドについて教えてください。

私は長年、成長企業やそこで活躍する人材を見てきましたが、事業責任者になる人の共通点は「自責思考で、自己中心性が低い」ということです。

自責思考というのは、何事も自分の責任であると捉え、他人や環境のせいにしない考え方のことです。周りのせいばかりにしている人が成功できないのは、ビジネスに限らないので、比較的イメージがしやすいのではないでしょうか。

ただし、むやみやたらに自分を責めることは自責思考とは言えません。具体的な場面を想定してみましょう。あなたの友人が、あなたとの予定をすっぽかしてしまったとします。この時に、友人の非を責めて怒りをぶつけるのは、他責思考です。また一方で「予定を忘れられるのは自分の魅力がないからだ…」と必要以上に落ち込むことも、自責思考とは呼べません。単なる自虐思考です。

本来の正しい自責思考には必ず、具体的なアクションが伴います。この場合なら「予定のリマインドを入れなかった自分も悪い。今度からは事前にリマインドを入れよう」と再発防止策とセットで考えることが自責思考といえるでしょう。事業運営において問題が起こるのはよくあることですが、その際に責任者が次なる手を素早く打てることは、事業をグロースさせる上で非常に重要になります。

次に、自己中心性の低さについてです。自己中心性が低い人は、自分のためではなく、他人や周囲のために働きかけることができ、主語を “we” で語れるような人です。

実は、自責思考を身に付けること以上に、自己中心性を減少させることは難しいです。例えば、就職活動において「自己成長」や「市場価値」ばかりを重要視している学生がいるとしましょう。一見すると向上心が高く、成功しそうに思えます。しかし、ここで止まってしまっていては自己中心性が高いままで、どこかで壁にぶつかる可能性が高いです。

事業責任者クラスの人は、もっと視座が高く「仕事を通じてどのように社会に貢献するか」「どんな課題を解決したいのか」といった、自分以外に向かう外向きのエネルギーを原動力にしています。彼らにとって自己成長はあくまでも目的を達成するための手段であり、当然の努力です。事業責任者にふさわしいマインドを身に付けたいなら、まずは自己中心性の高さがもたらす弊害をメタ認知しなければなりません。

ハーバード大学教育大学院教授・ハワード・ガードナーは「成長とは、自己中心性の減少のプロセスである」と説いています。自己中心性を減少させるための第一歩は、相手の気持ちを理解すること、第三者の立場になって考えることです。さらには、自分と他者の関係性すらもメタ的に捉え、最終的には森羅万象を俯瞰する……このような「視点の拡張」が自己中心性の減少には必要です。

SECTION 4/5

事業責任者になりやすい人②成長のセカンドカーブを乗り越える

──入社してからのキャリアにおいてはどのような戦略を取れば事業責任者に近づけるのでしょうか?

まずはこちらの図をご覧ください。これは「成長カーブ理論」と言って、若手社会人としての成長曲線を描いたグラフです。この考え方は企業で活躍するために非常に重要であるものの、実は理解している方は少数です。先に結論からお伝えすると、事業責任者への道は「セカンドカーブを乗り越えた先」にあります。

──セカンドカーブを乗り越えた先……。まずはその前段階の、ファーストカーブについて教えていただけますか?

ファーストカーブはおおよそ社会人2~3年目までの期間を指し、ここではまず「一人前になること」が目標になります。会社や組織が持つケイパビリティをキャッチアップするフェーズで、どんな新入社員も必ず0からのスタートになるため、明確に成長実感が得られます。

運命の分かれ道はこのファーストカーブを登りきった後です。成長実感を持ちにくくなるこのタイミングで「もうこの会社から学ぶことはないな」と思って転職をすれば、別のフィールドで新たなファーストカーブを登ることができます。そうすれば再度成長実感を得ることができますが、果たしてそれでいいのでしょうか?

──先ほどの話を踏まえると、それは自己中心性が強すぎるのではないでしょうか?

その通りです。会社から学ぶべきことを学び一人前になったなら、次は「組織に新たな価値をAddする」ことを意識するとより大きな役割を担える人材になっていけます。これが成長のセカンドカーブの始まりです。

埋めるべきギャップが明確だったファーストカーブと比べると、セカンドカーブは視界不良です。どうすれば自分が関わることで差分を生めるかを考え、試行錯誤をしながら自らの手でカーブを創造する必要があります。

これは非常に難度が高い試みであり、だからこそ、この壁を前にして安易な転職に手を出してしまう人がいます。念のため補足ですが、転職を否定しているわけではありません。やりたいことが明確に見つかり、今の会社でそれが実現できない場合の転職は有効な手段です。

ここで私が伝えたいのは、わかりやすい成長の果実ばかりを追って欲しくない、ということです。一人前になって満足するのではなく、そこから組織のケイパビリティを拡張してくれる人材は、組織にとって貴重な存在です。このようにして、成長のセカンドカーブを乗り越えた人(もしくは乗り越えようとしている人)にこそ、事業責任者などの上流のポジションが待っています。

SECTION 5/5

事業責任者になるために今からできること

ここまでの話をまとめると、以下のようになります。

今回は中長期的なキャリアの観点からの話でしたが、就職活動の文脈では、環境面は企業分析に、マインド面は自己分析や自己PR、ロールモデル探しに有効だと思います。ぜひ参考にしてみてください。

── ありがとうございました。最後に、事業責任者を目指す上で学生が今からでもできることはありますか?

一般的に大事なのは「経営層との共通言語を蓄えること」です。事業責任者はあくまでも経営層から認知されて抜擢されるものですし、事業のトップに立つ人は必然的に経営層との接点が増えます。そのため、学生のうちに経営層と会話するための共通言語を持っていれば、より早い段階で目に留まりやすい存在になれるかもしれません。

具体的なアクションとしては、とにかく経営者や起業家と接点を持つことです。一番いいのは、長期インターンなどで実際にベンチャーやスタートアップで一緒に働くことですが、Goodfindが開催しているようなイベントやセミナーで経営者が登壇するものに参加してもらうのも手だと思います。

Twitterやnoteなどのソーシャルアカウントを名刺代わりにネットワーキングすることも可能です。自分で発信を続けていると、受け身のままでは得られない思わぬ出会いが生まれることもあります。その他にも、経営や会社の知識を身につけるという意味ではビジネス書を読んだり、投資家が読む『四季報』を読むのも手です。私も過去に四季報を全部最初から最後まで通読したことがありますが、市場や業界の全体感が掴めるので、非常に勉強になります。ただし、本当に途方もない作業ですので、時間と根気のある方はぜひ挑戦してみてください。

最後に、事業責任者というのは、事業・組織の中核として社会に新しい価値を創出する仕事です。将来、事業責任者を目指したいという方々は、新しい産業を創っていく「Shapers」を支援するGoodfindとしても、ぜひ応援したい人たちです。この記事で学んだことを踏まえ、環境を正しく選び、事業責任者にふさわしいマインドを持って、キャリアをつくっていってほしいと思います。

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